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「五つの箱の死」感想 よ、読みにくい……

「五つの箱の死」 カーター・ディクスン著 白須清美訳 山口雅也製作総指揮 図書刊行会 って本読みました。

 

推理小説の古典なのですが、なんか、全然詳しくない奴がこの本だけをたまたま手に取って何となく読んでみる……なんていう読み方では太刀打ちできないやつ?って感じでした。

 

文章は読みにくかったし、この本が物議を醸してるらしきトリックも読み終えても良くも悪くも驚かなかったというか、ピンとこなかったというか。

 

でもそれは決してこの本が悪いからということではなさそうで、いろいろと不思議な読後感の本でした。それで言うなら珍しい読書体験を得たのかも。

 

本当に何の予備知識もなくたまたま手に取ってみただけの本です。

 

いやカーター・ディクスン(ジョン・ディクスン・カー)はさすがに知ってます。古典推理小説の大家。読んだことはありませんが。

 

私は全く推理小説マニアではないけど若い頃江戸川乱歩にかぶれたことはあって、それの派生でカーの名前だけは知ってたって感じでした。ポーと区別つきにくいけど。ポーとカーはね。ポーカーでね。

 

 

 

さて、ページめくってみると最初にあったのは作者でも訳者でもない人による前書きでした。妙に芝居がかった文体の。

 

 

この山口雅也という人は「奇想天外の本棚」という企画を主催してる人で、この「五つの箱の死」もそういう奇想天外な本の一つだという紹介でした。

 

なにやらこの本はカーの著作の中では評価が低く、それはトリックがアンフェアだからだけど、でもそれは旧訳の造本上のミスのせいだと言うのです。なるほど。

 

で、このたびそのミスを修正した新訳を出したので読んでみてね、と。

 

というわけで興味をひかれて読んでみたのでした。ミステリーは詳しくないけど乱歩横溝系好きだし、あと「反則」系も決して嫌いではない自分にとっては楽しめるかもしれない!と。

 

例えば小説「餓狼の弾痕」、映画「フォーガットン」を笑って許せるような人向け?みたいな?

 

と、小さな期待を込めて読み始めましたが。

 

 

 

まー、読みにくい本でした!

 

トリックとか以前に、読みにくさが最大の壁。

 

 

1938年のかなり古いイギリスの小説を直訳だけしたような印象で、私の日本語感覚では全然すらすらとは読めませんでした。

 

「マスターズは汚い言葉を使うことを自分に許した。」とかすごい直訳っぽそう。原文は知らんけど。

 

あと「彼は瞑想にふけるように、拳を突き出した。」も、瞑想にふけるように拳を突き出すというのが、一体どういう表現なのか微妙によく分かりませんし。

 

原文の古い英語ならではの修飾語を忠実に翻訳してるのかもしれませんが、読みにくいったらないです。

 

ここはもうちょっと現代日本語に合わせて意訳や省略を多めにしてくれても良かったのになあ~って思いました。

 

 

でもまー全く分からないこともないので頑張ってなんとか読み終えました。もしかしたら私がこの手の小説に不慣れなだけであって、古い外国小説の翻訳なんてこんなもんなのかもしれません。

 

では肝心のトリックに関してはどうだったかと言うと、前述の通り私は特に驚きもせず普通に納得してしまいました。以下ネタバレあり感想。

 

 

 

ネットで調べてみたところ、この本はどこが「アンフェア」なのかというと、つまりは真犯人がいきなり出てきた人だったから、なのでしょうかね?

 

で、旧訳ではもしかして、真犯人の描写が途中で抜け落ちてたとか???

 

この本では完全にいきなり出てきた人ってわけでもありません。途中でちゃんといました。

 

「旧訳の造本上のミス」とはなんだったのか、真相は分かりませんけど、読んでみて、そしてネットで検索してみて「そうなのかな」と想像しました。

 

 

推理小説で、容疑者が3,4人いて、探偵はその人達を調査するけど、真犯人は全く別の人だったことが、アンフェア?

 

まー。ミステリーマニアだったらそう思うのかもしれません。

 

私は推理小説を読んでも「犯人を自分で当ててみよう」とか思わずに無心で読むタイプなので、このことに関して別に憤慨はしませんでした。ただただ納得したのでした。

 

名探偵ヘンリー・メリヴェール卿が容疑者達を調査してて全員を「こいつが犯人だとしたら論理的に辻褄が合わない」と判断したのなら、じゃあ犯人は別にいるんじゃん。それで納得じゃん。みたいな感じでした。その理屈は非常に筋が通ってます。

 

これが反則か、と言えば、まー……やっぱり、反則かなあ~???

 

でもやっぱりミステリーマニアはともかく、私はこれで納得したんだから、これはこれでいんだと思います。

 

この本は殺人現場がめちゃくちゃ不可解で、被害者が毒を盛られた上に刺されたのはなぜなのか、他に毒を盛られて死んでない人はなぜ死んでないのか、現場にあった意味不明な小道具はなんのためにあったのか、調査の過程で出てきた五つの箱には何が入っててどんな意味があったのか、それら全てをちゃんと説明してくれてスッキリした感もありました。

 

 

あと殺人のトリックで氷が使われてて、一つの容器に入れられたドリンクを最初に飲んだ人は無事で後から飲んだ人には毒が効いた、というのは、今でこそ全く驚かないものですが、1938年だったらこれは画期的な殺人トリックだったんだろうなあ~と、ちょっと思いました。

 

これはきっと、例えば、今の時代の恋愛物語に慣れてる人が夏目漱石の「こころ」を読んでも驚かなかったり、今の時代の格闘技物語に慣れてる人が夢枕獏の「餓狼伝」「獅子の門」を読んでも驚かないのと同じ現象なんだと思います。

 

古い時代の元祖的存在。なのでしょう。たぶん。

 

 

というわけでこの本、奇想天外だったかと言うとそうでもないのですが、それ以外の面でいろいろとちょっと面白い現象を見ることができた本でした。そこは良かったです。読みにくかったことを差し引いても。

 

 

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