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「羆嵐」感想 超素晴らしかった!

吉村昭 新潮文庫「羆嵐(くまあらし)」 って本読みました。

 

めちゃくちゃ面白かったです!

 

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(表紙も素晴らしい!) 

 

どんな本かというと、裏表紙に書かれているまさにその通りの本です。

 

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1915年に実際に北海道で起こった獣害事件をもとにした、ドキュメンタリーというか小説というか。

 

 

その三毛別羆事件は知る人は知る感じで有名です。

 

当時の北海道の貧しい開拓民の村落に巨大凶暴ヒグマが襲ってきて、村人6人が殺されて、近隣の男達や警察官が出動してもなすすべがなくて、最後は熊撃ちの達人猟師が仕留める、という話。

 

この本の存在は前々から知ってましたが、ようやく読むことができました。

 

大満足でした。

 

私は普段は読書のペース遅いほうなのに、この本は続きを読みたくてページをめくる手が止まらなくてほぼ1日で読み終えました。

 

 

 

何が面白いって、臨場感です。

 

作者吉村がめっちゃ臨場感ある文章を書くんです。

 

その場の光景や人物の心情を描写するのに必要な文章を、余計な装飾をつけずに、的確に過不足なく書いてるって感じで、本当に真の意味で洗練されてる文章だと思いました。

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また他にも臨場感ある~と思った要素があります。

 

この物語は大きく分けて4つの場面で構成されてます。

 

最初に舞台の北海道の三毛別や六線沢の開拓地がどんなところかの紹介、2番目に羆が登場して人間を襲って食べる恐怖の場面、3番目に近隣に事件が知れ渡って集まった男達の烏合の衆な様子、最後に熊撃ちの達人銀四郎と羆との対決、という感じなのですが、この最後の両者の直接の対決シーンは、全249ページ中、たったの3ページくらいしかありません。

 

これがもしフィクションのアクション映画やバトル漫画だとしたら、つまんない構成だと思います。

 

クライマックスバトルは存分に盛り上げてくれないと、って。

 

しかし私はこの本に限っては、「羆退治のやり方を分かってる人が、鮮やかな手腕で速やかにその仕事をした」ことだけが3ページに過不足なく表現されてて、非常~に説得力やリアリティを感じました。

 

これは現実ってのは本当にそういうものだと思います。

 

それ以前の烏合の衆が100ページくらいかけて描かれてた、素人が羆になすすべもなくて空回りしてたのはひとえに「熊を撃つ」「狩猟」のノウハウを全然持ってないからでした。

 

(殺人熊に怯え切ってるのも大きいですが)

 

素人とプロの差というものをこの本でものすごく感じました。

 

 

また、その素人集団が本当に情けなくて、その描写がまた見事で。

 

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村で銃を持ってる数少ない男たちは、日頃自慢話をしてたのに、いざ緊急事態になったら、その銃がろくに手入れもされてなくて不発続きで、何の役にも立たなくて、彼らの面目が丸つぶれになってる描写とか、いたたまれないです。

 

 

 かたや熊撃ちの銀四郎は、羆の習性にも長けてて場数を踏んでて恐怖に打ち勝つ精神力を持ってて、見事に羆を仕留めます。

 

しかしこの男は決してヒーローではありませんでした。

 

普段は乱暴者で嫌われ者で、そもそも山に籠って熊撃ちになったこと自体が、人々の社会に馴染めなかったから感があります。

 

さすがに尋常ではない緊急事態になればほっとけないから熊退治に尽力してくれましたが、いざ落着したら、村人にかなり高い報酬を要求し(50円)、憮然とした様子で去ってしまいました。

 

ただこれは銀四郎の気持ちは分からなくもありません。

 

 

銀四郎が嫌われ者なのは自業自得ですが、村人達はそんな彼にすがるしかなくて、彼に頭を下げて助けを求めるのは不本意極まりないっていう事実関係を、銀四郎本人もじゅうじゅう理解してたに違いありません。

 

それで事が済んだら調子のいい態度になって、彼が激高するのも無理無いかもなあーと。

 

ちなみに作中ではこの銀四郎というキャラクターだけは、吉村の完全創作なのだそうです。

 

史実と脚色と、リアルとフィクションが入り混じってて、その両者のいいとこどりしたような作品だったと思います。

 

本当に面白い本でした!

 

読んで良かったあー。

 

もっと早く読んでれば良かったあー。

 

 

 

ところでこの本読むとどうしても「ゴールデンカムイ」を連想します。

 

作中に「村田銃」って言葉がたまに出てくるのですが、それがどんなものかはゴルカムで予習してたから容易に理解できましたし。

 

そしてこの小説のラストでは、撃ち殺した羆を村人みんなで食べたことに驚きました。

 

人を食った羆を。

 

銀四郎が「食べることがしきたりであり、犠牲者への供養だ」と主張して。

 

私はゴルカムに出たアイヌの「ウェンカムイ(人を食ったことがある熊とか)は食べない」という思想には、なんか心情的に賛同しなかったのですが、この羆嵐で最後に羆を食べたことには、妙にしっくりきました。

 

間接的に人肉を食べてるような拒否感もありますが、当時は肉は貴重な栄養源ですし、「獲物を食べて自分の血肉にする」ってのは、その点では人も羆も同じで、理にかなった思想だと思いました。

 

 

 

さらに余談。

 

この本を調べようと検索したところ、まさに同名のプロレスラーがいました。

 

「くま」が名字で「あらし」が名前なのか、あるいは四股名みたいな感じ?

 

 

あと「羆嵐(ひぐまあらし)」という漢字ではなく、「熊嵐」で検索してしまうと、アニメ「ユリ熊嵐」がよく出てきます。

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私は見たことなくて作品内容については無知ですが、この作品はタイトルが「ユリ羆嵐」でなくて良かったと心から思いました。

 

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  • 作者:吉村昭
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ヤマケイ文庫 野性伝説 羆風/飴色角と三本指

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