マイホームヒーロー。登場人物が次々と減っています。窪に殺されて。
そして窪がそう行動するように間接的に操っていたのは我らが主人公鳥栖哲雄。
しかし窪は哲雄の想定を大きく逸した大量虐殺を繰り広げてしまい、哲雄を戦慄させます。
週刊ヤングマガジン 原作:山川直輝 漫画:朝基まさし 「マイホームヒーロー」
現時点で窪は、鳥栖実家カルト宗教の村人を161人殺したそうです。
一人の人間が一日やそこらで閉鎖的山村で大量殺人を犯した……って言うと、やっぱり「八つ墓村」や現実の事件「津山事件」を連想します。
しかしあれでも犠牲者数は30人とかです。
状況や期間を限定せず「大量殺人 最高記録」でぐぐってみても歴史上一人で3桁を殺した殺人犯はいないようです。
窪はそれ以上の数を殺しまくりました。
この漫画はフィクションとは言え、おっそろしいことを繰り広げます。窪。
何がおそろしいって、やるメリットが無いことです。こんな大量殺人。
もともと窪はヤクザの任務としてこの村に金を奪うためにやってきたんです。
まー哲雄の計略で部下を村人に殺されて、否応なく全面戦争にさせられた側面はあります。
しかし雑魚を100人殺したあたりで、村側の指揮官洋二と会話する機会を得て、洋二は全面降伏して「村の全財産を渡す」と言い出したのに、それを蹴って「大量殺人チャレンジ」を続行してしまいます。
160人殺した時点でも、また村の別の指揮官胡蝶とも会話し「お金は渡すから命だけは」と懇願されても無視し、彼女を161人目の犠牲者としました。
なんでや。
受ければいいのにって思いました。
窪は殺し合い(命を賭けた戦い)が楽しいっていうのはまー理解できます。
でも。それで100人殺した時点で「もうじゅうぶん楽しんだ」と満足してれば、超莫大な賞金が手に入るだけでなく、生き残りの村人を支配して緘口令なり後片付けをさせるなりして悠々と村から帰還することができたのに。その後は裏社会と金の力があれば高飛びも不可能ではないです。
それを蹴って殺人を続けたところで、目的だった筈の金を得ることもできなくなり自分が生還する可能性も消えるだけです。
金と自分の人生も捨ててでも大量殺人の快楽に抗えなくなったってことなんでしょうかね。
なんつうか「極悪非道な行為を」「やめれば膨大なメリットがあり」「続けたら膨大なデメリットがあるのに」「続けてしまう心理」はあまりに無意味過ぎて、本当に理解不能なモンスターです。
これまでの物語で窪は冷徹に任務を遂行するタイプの人間として描かれてました。
村人に追跡され、部下の命を一応守ろうとする姿勢を示します。
しかし窪の部下は山歩きですぐに体力の限界となり次々と脱落して死んでいき(窪のスタミナがものすごい)、最後の一人が敵に射殺されたときに、彼の中で何かがプッツリと切れたようです。
じゃなくて、本性が現れたとでも言うほうが適切でしょうか?
その瞬間に彼は任務とか金とか何もかもがどうでも良くなったっぽい。自分の命すらも?
今の状況がただ面白くて楽しいと。
そこからはひたすら殺人鬼と化し、村の戦闘員、非戦闘員、老若男女お構いなしに殺しまくります。ひえー。
楽しいのは命を賭けた戦いの筈なのに、無抵抗な村の女たちも一方的に処刑しだして、もう本当に滅茶苦茶です。
本人も「楽しくない」と言ってるのに、やるという。
私は読んでて「本当は無抵抗な弱者を殺すのも楽しいんでしょ?」って思いました。
狂ってます!狂ってますねえー!本人も自分が支離滅裂に狂ってることを自覚してるっぽいです。
私としてはこれはこれで面白いんじゃないかと思います。この展開を肯定的に受け止めています。
この漫画の全てを絶賛するわけではないですが、それを差し引いたとしても面白いですよマジで。
こんな漫画滅多にないです。
物語の最初は一般家庭の中年おじさんとヤクザ系列の半グレ組織の戦いだったのが、妻歌仙の実家悪徳カルト宗教と警察も参戦しての四つ巴となり、まず警察が脱落し、次に実家がこうやって窪に壊滅させられて、物語は再び哲雄と窪との戦いに回帰したって感じで。
胡蝶を殺し、あとは逃げ隠れた村人を探すくらいしかやることがなくなった時に、窪の脳裏に浮かんだのは、哲雄。
おー。
彼の殺人心理はまるで理解できませんが、この大量殺人チャレンジの締めくくりは哲雄でないといけないって気持ちだけはちょっと分かります。なるほどね!
自分とは全く違うタイプの殺人鬼・哲雄をライバルと認めるというか惹かれている気持ち。
両者がこの村で対峙するあのシーンにこうやって繋がるのか。なるほどね!
哲雄は数でこそ窪の足元にも及びませんが、3人の人間をその手で殺した殺人者です。
その手並みは窪もこうやって出し抜かれたほどです。
そして彼も彼で殺人観に関しては窪とは別方向に異常です。
彼が殺した相手間取延人、間取義辰、鳥栖郷一郎は「自分の妻や娘をおびやかした者」と基準が明確であり、また彼の計略で窪を利用し間接的に殺した村人も悪徳カルト宗教の狂信者でありその基準に当てはまります。
それで妻と娘の無事のために、自分がその後捕まって裁かれることを覚悟の上で殺人や計略を実行します。
しかし彼は実行時にはすごい意志や行動力を見せるのに、たびたび罪悪感に打ちのめされます。
くどいほどに毎度毎度その描写が挟まれます。
そこにものすごいアンバランスさを私はよく感じます。
私は哲雄にもちょっと人間的異常性を感じてます。
そんな二人の狂人が対決する瞬間は近いのでしょうか?
この物語は、登場人物達がどうなるのかは当然分かりませんが、この事件は後日に世間に明るみになることはすでに確定しています。
窪は本名佐武辰巳であること、その半生、事件の内容などなどが大々的に報道されたってエピソードがありました。
そうなるってことは、窪は今回の事件の後、結局捕まるか死ぬかのどっちかなのだろうなとは推測できます。
逃げおおせたならこんな報道にはまずならないわけで。
しかしそこ以外の全てはどうなるのかはまるで予想がつきません。
私としては、鳥栖一家は、普通に暮らすようになってほしいとちょっと思います。
あ、でも最終回で一見普通に暮らせるようになったと見せかけて、彼に次の絶望が襲ってくる場面でENDっていうのは嫌ですけどね。
結末がどうなるのか(どうするのか)非常に楽しみです。
月夜見や小沢も死ぬんでしょうか?
この漫画本当に個性的で面白いです。
こうやって狂っていく過程も私は楽しんでます。
頑張れマイホームヒーロー。