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「第三の極地」感想 エベレストの山頂に滞積するあらゆる種類のゴミ

「第三の極地 エヴェレスト、その夢と死と謎」 亜紀書房 マーク・シノット著 古屋美登里訳 って本読みました。

 

すごい読み応えのある本でした。しかしそれはエベレスト登頂を目指す全ての登山家に私は否定的印象を持った、という意味で、でした。

 

エベレストには彼らがまき散らした廃棄物、糞尿、吐瀉物、そして死体すらもがゴミとして今でも残っててそして増え続けます。さらには商売や国家や政治の薄汚い謀略という意味での精神的なゴミも充満してるんです。おえ~。

 

最初にこの本に興味が湧いて読んでみる気になったのは、私は元々高野秀行という作家が好きで、この本に高野の作風に似たものをちょっと感じたからでした。

 

高野は冒険家で、世界中の辺境や危険地帯に自ら飛び込んでくような人で、その冒険譚はめっちゃ面白いです。

 

その行動力のみならず語学力とか文章力とか凄い聡明な人であると同時に、冒険の中で信じられないようなドジをよくやらかしててマヌケという印象もある不思議な人です。

 

それで言えばこの本の作者シノットも、エベレストに登頂できてしまう凄腕冒険家でありつつ、こんな重厚な本を(特にエベレスト登山の薄汚い一面を隠さずに)緻密に執筆できるほど超聡明できっと誠実な人なんですが、しかし私にはどうしても彼自身も薄汚い登山家の一人だとしか思えませんでした。

 

シノットが文中で記した、道中で吐いた痰やゲロは今もそこに残ってるわけでしょ?糞尿はどうしたんでしょうね?もちろんちゃんと持って帰ったんですよね?

 

彼がこの本を執筆するに際して関わった会社だって、活動はクリーンだとか鵜呑みにする気にはなれませんでした。

 

この本は、高野の本をスケールを大きくして笑えない要素を増やしたような本でした。奇しくもその不快感が読み応えとなって最後までがっつり読んでしまいました。人には不快なものをわざわざ見たがる心理がありますよね。下世話趣味と言うかグランギニョールと言うか。あんまり健全ではない心理だそうですけど。

 

 

 

 

さて、この本の内容を端的に言うと「エベレストに最初に登頂した人は誰か問題」でした。

 

記録が残ってて生きて帰ってきた人なら、1953年に南側から登ったエドモンド・ヒラリーテンジン・ノルゲイ

 

では、もし、それより前に、生きて帰ってこれなかったけど登頂だけはできた人がいたとしたら?っていう問題です。

 

それが1924年のジョージ・マロリーアンドリュー・アーヴィン

 

マロリーは「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるからだ」という言葉(誤訳)が有名な人です。彼の死体は1999年に発見されたのですが、アーヴィンの死体と、彼らが持ってた筈のカメラ「コダックVPK」は発見されておらず、それを探すというのがこの冒険の目的。

 

二人は仮に頂上に行けてても生還できなかったのだからそれを「登頂」とは言えないのでしょう。しかしカメラをもし発見できて現像できたら、かなりのニュース価値があるそうです。

 

ナショナルジオグラフィック社とかエベレスト専門の登山会社とかの企画となりチームが編成され、この本の作者シノットが実際に探す係。

 

(↑のリンクは記事全文は会員しか読めないやつですが)

 

で、結果、死体もカメラも見つけることはできませんでした

 

普通ならこのオチは落胆すると思います。分厚い本の最後まで引っ張って「失敗でした~」なわけですから。しかしこの本に限っては違います。見つからなかったことに意味がすごい出てくるんです。

 

さらに言うと、一度は発見されたマロリーの死体も今は行方不明になってるんだそうです。

 

そこで作者は、マロリーの死体もアーヴィンの死体もカメラも他の誰かが先に持ち去り隠蔽した可能性を示唆します。

 

誰が?中国が!

 

 

この本で中国という国の闇をふんだんに感じて本当に「おえ~」ってなります。

 

中国は、エベレストを「北側から」登って世界初登頂を果たした国だと自負してます。1964年に王富洲屈銀華貢布の3人が。写真証拠は伴ってませんが。

 

中国はそれを非常~に国家の威信だと思ってて、もしマロリー達が(死んだにしろ)カメラに登頂の証拠を先に残してたら非常~に都合が悪い、と。

 

なるほどね~。

 

いや~どうなんでしょうね~。研究者が長年必死にアーヴィンの遭難ポイントを特定しても、作者が必死にそこに辿り着いても、死体もカメラも無かったのは一体なぜでしょうね~。研究が間違ってたんでしょうかね~。

 

実際、中国登山協会は嘘をついてまで作者たちの登山を妨害してきたりします。「天気予報で嵐が来るからやめろ」とか。中国以外の天気予報は晴天だと言ってて実際嵐は来ませんでした。また当時の当事者達の証言は時代や政治的状況が変わるのと連動してコロコロ変わります。

 

私は読んでてこのオチがとても腑に落ちました。「あ~!なるほど!こうきたか!」と膝を打つほどに。

 

「エベレスト→ネパールやチベット→中国の弾圧」という連想はきっと誰もがすると思うのですが、その本はそこに帰結して腑に落ちるという嫌な満足感がありました。

 

 

 

とは言え、エベレストにおいて「おえ~」ってなるのは中国だけではありません。

 

つうかこの本に出るほとんどの登山者に私は嫌悪感が湧きます。

 

マジでエベレスト登山は、すること自体が深刻な環境破壊です。やってる奴らは恥ずかしいと思わないんでしょうかね。

 

この本にはカラー写真ページもあるのですが、そこに「エベレスト ゴミ」で検索すれば出てくるような写真も掲載すれば良かったんじゃないの?って思います。

 

この問題は野口健清掃登山活動してることや富士山にも存在してることとかでぼんやり知ってましたが、予想以上でした。そこが結構ショック。

 

 

 

今はエベレスト登山専門の旅行会社が充実してて大金さえ積めば誰でも登山できる状態であることもこの問題に拍車をかけてます。

 

またシェルパ(ガイド)(ポーター)を生業にするチベット人とかにとっても、「自分が登頂した」「自分が担当した客が登頂した」という実績は給料の額に直結してて、ビジネス一色となってる世知辛くみっともない世界がこの本では赤裸々に語られてて、作者にいろんな意味で感心します。

 

そして2019年5月22日9時30分ごろ、実に悲惨な写真が撮影され、それがこの本の表紙となってるんだからすごいです。

 

 

頂上付近で「客が渋滞してる」という写真。この写真は全世界に拡散され、拝金主義、環境破壊と散々に批判されたそうな。さもありなん。むべなるかな。

 

 

 

そして私は、作者だってこの写真のゴミどもと五十歩百歩ではないのかと思わずにはいられませんでした。

 

ね。もしカメラが見つかってニュースになってたら、それが威信や大金になってたのよね?

 

それに作者はミッションが失敗に終わっても登頂には成功してて、それで心情的にはスッキリしてて、その感覚にも疑問です。

 

結局現代のエベレスト登山は金で買える地球で最も究極の自己満足であり、作者も登頂したという自己満足で悦になってるだけに見えました。サウナで「整った」と言ってるのとたいして変わらないです。

 

少なくともこれからエベレストに登ろうって人と登らせようって会社は「自分はマナーを完璧に守ってる」ことを常に証明できる状態でいるべき。つうかゴミが一掃されるまで一人も観光させるな。まー、どっかの国は仮に世界的に同意が結ばれても平気で破りまくるんでしょうけどね。

 

今はコロナでどうなってるか知らんけど。

 

 

 

この本はエベレスト登頂のドラマやロマンや感動、登山家へのリスペクトが主旨なんだと思いますが、私は全く逆の感想を持ってしまいました。エベレスト登山はただの環境破壊行為だと。トロフィーハンティングと同レベルの。

 

またこの本には本件とは全く無関係のインド系イギリス人女性登山家カムの半生も描かれてるのですが、そこにも私は感動はしませんでした。

 

彼女はイギリスで恵まれない幼少時代を過ごし、非行に走り14歳でレイプ被害を受けそのトラウマで長年苦しんだけど、マラソンランナーとして開花し登山家に転身し、世界の最高峰を次々制覇し脚光を浴びついにエベレストに挑戦したという。

 

彼女がレイプされたのは自分が非行化したせいの自業自得だろなんてことは決して言いませんし、彼女の挑戦が彼女自身や多くの人々の心を救ってるのならいいことだとも思うのですが、でもそれがエベレストであることが、どうしてもどうしても、環境破壊、イベント、スポンサー、商売、エンタメ、感動ポルノと結びついてしまい共感性を下げます。

 

日本テレビの24時間テレビに近い匂いを感じて。あれもあれのおかげで救われる人がいるなら大いにいいことですが、ジャニーズとのズブズブやマラソンの予定調和とかがどうしても視聴する意欲をすり潰します。

 

カムの挑戦ががもっと環境負荷の小さい他の物事だったら私も彼女を「立派だな」と称賛できてたんですけどね。それこそマラソンとかでさ。

 

 

24時間テレビは今ふと頭に沸いたものだけど、この本の評価の基準値としてちょうどいいかもしれません。あの番組が好きな人はこの本に感動できるし、嫌いな人はこの本にも冷評的になりそう。あなたは24時間テレビ好きですか?

 

 

 

あと全く関係ない余談。私はこの本で久しぶりに「全く知らない漢字」と出会い、それを調べる用途で初めてスマホのgoogleレンズのアプリを活用しました。

 


本の写真を、目当ての漢字を中心に撮影すれば、googleが自動で調べてくれるやつ。

 

 

」。

 

 

なんでか私はこの漢字に全く見覚えがなくて、でも前後の文章から「そり」かなと推測はして、それがちゃんと正解で「やったぜ」とちょっと気分が良くなりました。

 

電子書籍ならキンドルとかでは文字の部分を直接長押しすれば即検索できます。紙の本ではそういうのは数年前まではできなかったけど、今はもう楽勝でできる時代になったのですね~。

 

 

 

 

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