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「三体0 球状閃電」感想 これは、ギリ、三体の前日譚ではない。

早川書房「三体0 球状閃電」 劉慈欣著 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ訳 って本読みました。

 

面白かったです。そして純粋な物語感想とは別の「この本は三体の前日譚と言えるのか問題」については、私は「違う派」となりました。

 

本当にギリギリ違うってくらいの印象です。「文句無しに前日譚だ派」を100として完全中立を50としたら、40ちょいくらいです。

 

なので「前日譚だ派」の人を私は一切反論や批判しません。あくまで個人の印象。

 

さてまずは物語の感想。

 

そもそも私は三体の三部作5冊は超面白かって、もうここ10年でのベストってくらいの大絶賛でした。普段全然読書家でもないんですけど。(三体X 観想之宙は読むの途中でやめました)

 

で、面白さで言えばこの球状閃電は三体に匹敵するとは決して言いません。

 

そもそも三体の面白さは、中国という検閲と不自由の国から生まれた作品であることが大きく影響してます。

 

三体という作品が中国政府や軍を一切批判することはできない厳しい検閲を無事に潜り抜けて発行を許可されてること自体が、作中の雲天明三体文明の検閲を潜り抜けて程心におとぎ話を伝えたこととかと妙にリンクして、それが感嘆を相乗させてる感がありました。

 

しかしこの本は逆で、作中で中国の軍は立派な存在として描かれてるし、中国とどこかの国(アメリカっぽい)とで戦争が勃発してしまい、中国が都合よく勝つ展開に説得力が全然無くて、なんつうか中国様のご機嫌取りしてるだけ感が強いです。

 

ただまー作中では広島長崎が一度言及されたり、作者劉慈欣が戦争そのものへの拒否感を持ってそうな描写がちょいちょいあることで、失望しきってるわけでもないですけど。

 

また、作中でロシア人女性の兵器開発者が「恐怖の兵器が自分や同胞や我が子に降りかかるのを防ぐ最善の方法は、その兵器を敵より先に自分が作り出すことだ」という自説を唱えてて、私はそれを読んで「うげ~」「カスが」と思うと同時に、論理的には確かにそうだとも思ってしまい、それにこの理屈は三体の暗黒森林理論とも通じてて、その一貫した価値観みたいなものに私は本当に拒否感と納得感の両方を持ってしまいます。これはこの世の、いやこの宇宙の不愉快な真理なのかもねー。と。

 

 

そして、純粋に物語としては、まずはヒロイン林雲。彼女はまさに「うげ~」「カスが」という不愉快な狂人でした。共感は一点も無いですねー。

 

ギークボーイ主人公の「ぼく」こと陳は超美人な彼女に惹かれつつも彼女の狂気に全然ついていけない心情にはすごく納得がいきます。

 

このへんのすっごい独特な恋愛観というか美女観というか、そういうノリは三体にもあって、劉慈欣の作風なんでしょうかねえ~。完全に奇人の奇行譚として読めば面白いです。

 

 

で、林雲と陳は球電という謎の気象現象に憑りつかれてゆきます。しかしその憑りつかれ方は全くの逆。

 

二人は幼い頃に親を惨殺されたトラウマを抱える強い共通点があるのに、全然逆。

 

林雲は軍人の母が過去に別の新兵器に惨殺された報を聞き、頭の根っこが狂ってしまい兵器や殺人行為に魅了され自らも軍人になり兵器開発し戦争に使用させ実際に敵を殺し、それに執着します。

 

かたや陳は幼い頃に両親が球電に灰にされる事故を目の前で見て、兵器や死に対し人一倍恐怖を持つようになり、しかし「なぜどうやって両親は死んだのか」を解明することには執着し研究を続けます。

 

両者のそれは分かる気がします。そして二人もお互いに「相容れない」ことを自覚してて、二人は最初から最後まで決して交ざり合うこともなく、物語は陳の視点から林雲を数歩離れた距離から眺めるだけで終始し、そのギーク感がいい味出してます。

 

 

 

そしてそこに割って入る第三の男、丁儀。ホームズ役です。それで強いて言えば林雲は依頼人&犯人の兼役で、陳は依頼人&ワトソン役って感じ?

 

その天才科学者丁儀が明かす球電の正体、マクロ電子ですが、これは完全なる作者の創作で、つうか実際の球電の正体は2023年でも完全には判明してないとか。

 

ここはあれですな。ネッシーとかジョジョのスカイフィッシュ(ロッズ)とかの創作ロマンですな。

 

この球電に関する物語は、マジで面白いの一言です。

 

球電が起こす怪現象の正体が見事に明かされていき、またそこから最後にマクロ核融合という物凄い展開になることは、本当に「よくこんなの思いつくわ」と、感嘆しまくりです。

 

狂人林雲が最後生きてるのか死んでるかも説明しにくいわけのわからん状態になったことも、彼女にはある意味お似合いだと思いました。罰せられて死ぬよりも。

 

いや本当にお見事な物語でした。面白かったです。

 

 

 

で、で、物語の内容とは別の「これは三体の前日譚なのか問題」。繋がってるところと繋がってないところの両方があります。

 

丁儀という三体の登場人物本人が登場してますし、作中にあった「絶対に観察者が誰もいない場所で観察者効果が発生してしまう」場面では、スーパー観察者智子(ともこではなくソフォンのほう)」の存在が暗示されてますし、ぶっちゃけ実際に繋がってるんです。

 

 

うーん、でもなあ~。戦争がなあ~。

 

球状閃電では2008年ごろ?に戦争が勃発して、中国は(林雲のせいで)大打撃を受け、しかしなぜか戦争には勝利してしまうという謎状態で、そこから数年後の三体1の物語に続けられるとはどうしても思えません。

 

それに中国とアメリカが戦争して中国が勝った世界って、地獄だとしか想像できなくて、それはロシアとウクライナの実際の戦争が実際に地獄なのでますますそういう印象を持ってしまいます。

 

あと球状閃電の世界でも中国とロシアは仲良しです……。

 

 

まー?まー?脳内解釈で球状閃電内の一部だけを受け入れて一部だけを気にしないようにするってのは全く不可能でもないですから、前日譚と言うのを決して受け入れられないってほどでもなく、なので私は「受け入れる度は100点中40点」ってところです!

 

 

それにしても、つくづく、戦争や超兵器のロマンはフィクションの中でだけであってほしいと思いました。

 

あとこの世の全てのクリエイターが検閲なんか受けずに自由に作品を創造できることも。たとえ検閲があるからこそ人は知恵を絞って物凄いものを生み出すって側面があるとしても。

 

 

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