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「三体Ⅲ 死神永生」感想 虫けらの独善と愛

早川書房「三体Ⅲ 死神永生」 劉慈欣著 大森望、光吉さくら、ワン・チャイ、泊功訳 って本読みました。

 

全巻読破!感無量です。ものすっごい物語でした。

 

3巻は超素晴らしかった2巻黒暗森林よりもさらにスケールアップしてました。それに、2巻は主人公の行動や思考に疑問というか心にひっかかるものがあってそれすらも面白かったところの一つだったのですが、3巻はそういう「主人公への疑問」もパワーアップしてました。

 

3巻主人公程心は作中で度々重要な選択を迫られてて、彼女の決断を理解できる気持ちと「何やってんだよ!」と罵りたい気持ちの両方があり、読み終わっても彼女の決断が正しかったのかどうか分からなくて今でもぼんやり思い耽ってしまい、でもそう思い耽れることもこの本の大きな魅力だと思います。

 

まず感想の前に中国絡みの嫌なニュースがあったのをちょっと貼っときたいです。

香港で中国政府を批判する主旨の絵本を出版した労働組合員が「政府への憎悪を募らせ子どもを洗脳しようとしてる」扇動罪で禁固刑の実刑判決を受けたというニュースでした。

 

この3巻を読んでる途中でこのニュースを聞いて、私は妙に得心しました。

 

うむ。やっぱり中国では政府の検閲を受けたものでないと存在が許されないんですねえ~。

 

(以下ネタバレあり感想)

 

 

つまり当然この三体シリーズは検閲を通ったから出版できてるわけです。まるで三体人の検閲を突破した雲天明のおとぎ話のように。

 

それで思うのはやっぱり智子です。ともこ

 

私は1巻2巻感想で「智子って「ソフォン」じゃなくて「ともこ」だよな」とか半分ふざけて書いたのですが、3巻では本当に智子ちゃんが女性型ロボットとして登場して驚きました。

 

そのロボ智子は名前だけでなく装いも住まいも武器も和風で、本当にザ・日本人でした。

 

途中で豹変して地球人を虫けら扱いしだして、見せしめに数十万人処刑するわ、ときに自らの手で虐殺するわ、その様子を見て私は中国の抗日ドラマを連想せずにはいられませんでした。

 

仮に智子が名前も姿も中国人的キャラデザインで、同じ行動をとって、もしデザインに少しでも中国共産党を連想させる要素があったら、作者劉慈欣はすぐ捕まって禁固されてたのだと思います。このニュースと同じように。

 

そういや1巻では文化大革命の時代が描かれてて「こいつは反動的だ」と解釈できうるものは徹底的に弾圧されたってありましたっけ。

 

私はこの三体シリーズは中国当局から摘発されないよう細心の注意が払われてるなあ~と、強く感じました。例えば2巻の国連の場面で各国代表が嫌味を言っても中国代表は言わないところとかにもね。

 

ただ私は別にそれを「残念だ」「なのでこの本は駄目だ」とは決して思わなくて、むしろ無事に問題無く出版できてることに感嘆します。

 

マジで劉慈欣と雲天明を重ねて見てしまいます。

 

劉慈欣は今や中国内では超VIPな存在らしいですが、もし今後の彼の出版物で少しでも反政府と解釈されるものがあったら、きっとそれでもすぐに捕まるのでしょう。

 

彼がそうならずに無事に作家活動を続けられるように願ってやみません。

 

彼の内心はもちろん私には分かりません。が、智子が「残虐な日本兵」像なだけではなく、それ以上に念入りに「美しく魅力的なヴィラン」に描かれてることや最後には程心と良い関係になって終わったこととか、文革とかおとぎ話とか暗黒森林密告社会世界観とかに、なんか、検閲を超えた思いを勝手に感じてます。

 

 

 

つうか私は三体シリーズで一番好きなキャラは智子です。素敵ですよね。

 

次は羅輯かな。2巻では彼への好感はさほどでもなかったけど3巻で株が上がった感じ。史強ウェイドも好きです。葉文潔艾AAも嫌いじゃないです。

 

では、3巻主人公程心(チェン・シン)はどうかというと。

 

程心。汪淼(ワン・ミャオ)や羅輯(ルオ・ジー)とは違い、初めてすんなり読める漢字の主人公。私は「ていしん」って読みました。

 

艾AAは「艾」は読めなかったけど文中ではずっとAAだったのですんなり頭に入ってきました。ちなみに「艾」は「よもぎ」だそうで。あと関一帆は完全に「せきかずほ」。

 

 

ところで3巻のサブタイ「死神永生」は中国語だと「スシンヨンシャン」って感じ?

 

邦題は「ししんえいせい」で、ここは「しにがみえいせい」のほうがかっこいいんじゃない?と思いました。原文ではこの「死神」は日本語の死神とは違う感じのものらしいですが。

 

死神永生、読む前は「死神の永世名人?」みたいなイメージでしたが、読み終えたら本題の「三体」のほうは上巻で決着がついてしまい、下巻はまさにこのサブタイでしっくりくる物語で完結したと思いました。

 

死神とは結局誰のことだったんでしょうかね。

 

普通に考えたら暗黒森林攻撃を撃てる文明、あの歌い手たちのこと。あるいは特定の誰かでなく宇宙全体の漠然なイメージってところでしょうか。

 

しかし私は程心も結構な死神だった気がします。

 

 

彼女の果てしなく長い40歳ほどの人生の中で、大きな選択を迫られたのは主に3回。

 

癌患者の天明に「脳だけになって階梯計画参加して」って通告するかどうか。執剣者として水滴襲撃の到達前に信号を全宇宙に発信して報復するかどうか。超光速宇宙船の開発を連邦政府と戦争してでも続けるかどうか。

 

彼女はその3回の選択で、3回とも不幸な結果を招きました。なんちゅうこっちゃ……。

 

 

1回目の選択は分かります。彼女の任務や使命は筋が通ってるし、自分に恒星DX3906を贈ってくれたのが天明だと知らなかったんだし。

 

でも天明の視点での物語を読むと、彼女の無自覚な残酷っぷりは、もう、これ以上残酷なことってあるか?ってくらい残酷。あまりにもむごい。

 

そして2回目と3回目はもう最悪です。彼女は目先の感情だけでの戦争反対を唱えて、戦争よりもっと酷い事態を引き起こし、無数の死者を出しました。

 

まー彼女自身は誰一人殺してないし、選択も要は地球人が「多大な犠牲を出して戦うか」「問答無用で殺されるか」の違いしかありませんけど、それでもやっぱり私は「死神ってのは程心のことじゃね?」と思わずにいられませんでした。

 

そのくせ彼女は自ら招いた不幸な世界を目の当たりにして、その都度打ちのめされて苦しみます。そこに若干イラっとしたり。

 

でもでも、2回目の選択で暗黒森林ボタンを押せなかった気持ちはまだ分からなくも無いです。

 

なのに3回目では、2回の悔恨で打ちのめされたくせに、なおまた同じ愚行を繰り返したのはマジで「なんでや……」と思いました。私は彼女の3回目の選択だけは本当に共感できませんでした。

 

しかもその後自分が禁止した光速船に自分らだけが乗って生き延びるという。死神っつうか疫病神です。

 

読んでてクラクラしました。

 

もちろん彼女のこういう罪は、作者劉慈欣が意図的にそう描いてるわけで。

 

読んでるこっちは本当にどう受け止めればいいのやら。

 

 

 

しかし、物語は彼女の罪とかもうどうでもいい些事になるほどスケールが超超超広大になっていきました。次元とか全宇宙の寿命とか。

 

それに比べたら彼女がこれまで殺した地球人数億人の命なんて微生物以下です。いや、全地球生物&全三体世界生物すらも。ねえ?

 

私はこのへんは、むしろ、これまでの彼女へのモヤモヤとした心証が、あまりの物語のスケールのでかさにいったん掻き消えたことは、いいことだったと思います。おかげで結末たる第6部を心澱みなく読めました。

 

全て読み終わって数日経った今もなお程心の罪については私は自分の中で整理できてないのですが、もうそれはそれでいいんじゃないか、という気もちょっと湧いてます。

 

うん、程心の罪は許せると許せないの半々くらい。だいたいそんな感じです。今んとこ。

 

 

 

で。結末。その宇宙のスケールもすごかったけど、人間ドラマもすごかったです。

 

太陽系が双対箔によって二次元化されて、脱出できた程心とAAはDX3906で二人の男と別々に出会います。一人は言わずと知れた雲天明、もう一人はまさかの関一帆。

 

でもこれで二組のカップルになるのね、と、思いきや、なんと、4人は合流する直前で、程心&一帆、AA&天明の組み合わせになって生涯引き離されるという超展開。

 

おいおい、程心と天明は直接再会できずに終わっちゃうのかよ!

 

まー私は二人の再会を願ってたわけでもないので別にいいんですが。

 

それに、これもこれでいいのかもしれません。うまく説明できませんが、なんとなく。

 

 

それよりも宇宙#647で程心が智子と再会したことのほうに感慨深いものがありました。

 

程心という人間にいろいろ思うところはあるけど、彼女が、自分の罪が許されるだの許されないだののレベルを超越した世界の果てで、同じく地球人に対していろいろやらかした智子と最後の最後で再会できたのは、本当に、戦い終わってノーサイドって感じがしました。

 

この三体っていう物語、最初は中国のレーダー基地で一人の女が怨念で始めて、全3巻全5冊で加速度的にパワーアップ&スケールアップして、最後は一組の変な男女と智子が愛で締めた、と。

 

私はハヤカワとかの本格SF小説はろくに読んだことはないし、この三体だって随所にあるSF描写をしっかり理解できてるとも言い難いけど、それでも超満足のSF小説でした。なんか自分がSF通になったような気分になれました。

 

奇想天外なアイデアが山のようにあって、物語の展開に驚かされて、中国的世界観にしみじみして、本格SF描写についていけなくて、最後には人間の(モヤモヤを含む)愛で満たされてるって感じでした。

 

本当に面白かったです。

 

3巻で良かったところは他にも天明のおとぎ話に仕掛けられた暗号、時代の様変わり、青銅時代の恐怖の裁判、四次元の墓場、歌い手の大して重要ではない仕事、などなど、無数にありました。見どころだらけ、というか見どころしかありませんでした。

 

謎なままの部分も多いです。ウェイドはなぜ程心との約束を守ったのか。AAはなぜ醜い西暦人の関一帆をハンサムと思ったのか。智子に感情はあるのか。このへんは謎だけど分かるような気もするところが好きです。

 

あと、シリーズで好きなセリフは「わたしがおまえたちを滅ぼすとして、それがおまえたちとなんの関係がある?」です。好きなアイテムは双対箔と精神印章

 

本当に読んで良かったと思いました。素晴らしかった!

 

 

 

あと余談。

 

 

「三体 智子」でgoogle検索すると、プリチャンの登場人物星姉ぇの画像が出てきて見た瞬間私は脱水しました。

 

貼った人はこの星姉ぇを「日本人がイメージした智子」と思ってるのかは定かではありませんが、この画像はあくまで星姉ぇがかつて「三体星智子」って芸名の売れないアイドルやってたってだけのパロネタです。

 

これが検索上位に出るのは汚染だわあー。

 

私はプリチャンを視聴してて、放送されてた時は三体に無知だったので、これが三体パロネタだと気づいたのはこの検索結果を見てからで、どうでもいいことですが私にとっては面白いことでした。

 

で、検索結果には普通に智子のイラストも多いのですが、和服時の智子は日本刀を持ってはいないんじゃね?

 

あと武装時の智子は、ショートヘア、迷彩服、黒いマフラー、背中に刀なので、そういう智子ちゃんのイラストもちょっと見てみたいものです。

 

 

 

 

 

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