小学館新書 美達大和著「罪を償うということ 自ら獄死を選んだ無期懲役囚の覚悟」って本読みました。
私は「刑務所もの」の本が結構好きで時々読みますが、この本は現在進行形で服役中の受刑者が獄中で書いたってところがちょっと珍しいです。
しかも著者はタイトルの通り釈放や仮釈放を望まず塀の中で死ぬ所存なのだと言います。
私は読んでてその心情は全然共感できませんでしたけど。
ただまー、どういう理屈でそう思ってるかは理路整然と書かれてて把握はできました。
この本は主に、「刑務所はこんなところ、受刑者はこんな奴」って話と、死刑や厳罰に対する著者の見解と、著者の所信、の3つで構成されてる感じです。
どれも読み応えありました。
著者はもう25年ムショで暮らしてるそうで、どこのムショかは伏せてるけどたぶんそこでずっと暮らしてて、でも他の受刑者に積極的に話しかけて情報収集することで、全国の刑務所事情に詳しくなってるのがすごいです。
再犯を繰り返してる奴は全国のいろんなところにぶち込まれた経験があるから、ムショごとのレビューを聞けるのだという。
札幌刑務所は食事がうまいから☆5つ!名古屋刑務所は行状が厳しいから☆1つ!みたいな?
ムショ界隈での「行状」って言葉は処遇の厳しさの度合いを指す専門用語らしいです。
さて。著者はすごく知能が高い人なのが読んでてすごく伝わってくるのですが、受刑者ってのはやっぱり知能が低く人間的良心に乏しい奴がほとんどなのだそうです。
著者は長いムショ暮らしで何百人もの受刑者仲間と話してきたのでしょうが、反省や自己改善の素養がある人は3人くらいしか見たことがないと豪語します。マジかよ。
それゆえに「日本の刑罰や刑務所はもっと厳しいほうがいい」「死刑制度はあったほうがいい」と唱えます。
それは受刑者たちは口を揃えて「死刑になるのは嫌だ」と言うからでもあるそうで。
そこまではまー私も理解できますが、再犯を繰り返してて「ムショに入っていたい」というタイプの奴も「長期刑は嫌だ」とも言うとも書いてあって、それはなんか不思議です。
ずっとムショに入りっぱなしよりはたまにシャバの空気を吸いたいってこと?
そういやここで本の感想から離れて私が普段思ってることの話になるのですが、「著しい凶悪犯を生かしておく価値はあるのか」って話なんですが、この問題は誰もが一度は考えたことあるんじゃないでしょうか。
いや、人権的な側面では生かす価値があることは理解できます。しかし経済的な側面で見たら生かすために少なからぬ税金が必要です。
複数の説によれば受刑者一人を一日生かすのに、1000円ちょいから1万円弱くらいの費用がかかってる計算になるとか。
これって完全に自給自足させるのは無理なんでしょうかね?
やっぱ無理かなあ~?
今の時代の高齢化社会では「もう働きもできない寝たきり高齢者受刑囚」も増えてて、働ける受刑囚が塀の中で介護してるとかなんとか。
厳しいですね。自給自足は難しい。
話を本の感想に戻して、この本では最後に著者は自分がやらかした犯罪と反省について記してます。
彼は元金融ヤクザで金銭絡みで人を二人殺して無期懲役を食らいました。
今の日本では無期刑ってのはほぼ終身刑と同じなんだそうです。最低でも35年は務めて、それからさらに厳しい審査に合格したら仮釈放みたいな感じで。そのときにはどんなに若くても60代。
で、彼はそういうのも目指さず一生ムショで過ごすと心に誓ってます。
その心理は私には全く理解できませんが、彼なりの信念のようなもので、それは法的に正式に刑期を終えることでも贖罪にはならないからだと言ってます。
うーむ。やっぱり共感はしないなあー。
もしかしたら自分のそんな人生に自分で納得を与えるためにそうしてるのかな?とか思いました。
本ではやたらと偉人の名言の引用が多くて、特定の宗教に傾倒してる様子はないけど、ちょっと精神論とか精神世界みたいな印象もあります。
私はどうだろうなあー。
今後の人生でムショにぶちこまれるようなことは、しないとは思うけど、でも、なんか、今の世の中って一歩間違えれば「ムショのほうがまし」って生き地獄になることも起こり得るじゃないですか。私は自分は絶対そうならないって自信は全然ありません。
もしそうなって、なんか大それた犯罪やって、ヘマして捕まって、ムショにぶちこまれたら。
私は「まーいっかあー」とか思うような気がします。根拠は無いけど。
その点で言えば私は著者のような贖罪の素養は無いのかもしれません。
とまー、著者には共感はしなかったという感想ではあるのですが、一つ掛け値なしに「著者は立派ですごいな」と思うことがあって、こういう本を獄中で執筆して世の中に出版してることです。
独房で辞書や参考文献を持ち込める数が厳しく制限されてて、執筆に使える時間も少なくて、ノートと鉛筆と消しゴムで執筆して、それを塀の外の支援者に提出するのにも検閲や枚数制限も大変で。
そんな状況で新書一冊分の原稿を書き上げるのはどれほど大変か想像もできません。
消しゴミは月に1個しか買えないんだそうです。
私なんてこんな適当なブログ書くだけでも、快適なネット環境とパソコンがないと到底無理なのに。
そこに一番著者へのリスペクトを感じました。