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「日本マンガ全史」感想 この本に名前が載ってる漫画いくつあるのか誰か数えてみて~

平凡社 澤村修治著「日本マンガ全史 「鳥獣戯画」から「鬼滅の刃」まで」って本読みました。

 

495ページのものすっごい情報量の本でした。

 

そして、読むと、日本の漫画の歴史を説こうとするとこれくらいかかるのは当然だなって思いました。

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とにかく「情報量」の本です。

 

そして質のほうも、著者は可能な限り私見を排除して漫画界の事実や出来事や状況を記そうとしててすごいです。

 

なんかマジで高校とかの日本史の教科書みたいな感じです。

 

いや。それでもこの本は私見ありきの本となってしまっています。

 

だって、「この時代はこういう状況で、こういう作品が生まれた」と書こうとすると、「こういう作品」の例に挙げる漫画タイトルの数にはどうしても限界があり、その取捨選択は著者の私見以外の何物でもありませんもん。

 

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例えば「週刊少年ジャンプは1980年代に部数を伸ばした」ってページでは、その例として挙げられてるのは「Dr.スランプ」「北斗の拳」「キャプテン翼」「ブラック・エンジェルズ」「風魔の小次郎」「銀牙-流れ星 銀-」「ストップ!!ひばりくん!」「キャッツ♡アイ」「ドラゴンボール」「ジョジョの奇妙な冒険」「DRAGON QUEST -ダイの大冒険-」「電影少女」のたったの12作品だけです。(「聖闘士星矢」は別のページに挙がってました)

 

「ハイスクール!奇面組」「ろくでなしBLUES」とかは載ってません。

 

これきっと奇面組ファンは不満に思うでしょうね。私は逆にジョジョファンなので載ってたことにちょっと喜びましたが。

 

しかし全部を挙げるのは不可能に決まってます。

 

それに「挙がってるのはたったの12作品」と言っても、それだけでも並べると文字数を食うのは見ての通りなわけですし。

 

というか著者自身がそのへん自覚してて、あとがきとかでその苦悩がうかがえました。

 

しかしそれでも!可能な限りは書きたい!という著者の思いが495ページという分厚さにさせてしまったのでしょう。

 

絵も多いですし。

 

ここがきっと現実的に可能だった分厚さの限界ライン。

 

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(分厚い!)

 

私も読んでて495ページがベストだと思いました。

 

なんつうか例えば「日本の歴史を変えた漫画100作」とかでは話にならないし、逆に書ける量に限界を無くしてしまうと、きっと数千ページの単なる冗長な目録になるだけでしょうし。

 

 

 

さて。内容の感想はというと。

 

 

まずは漫画の定義ですが、定義づけがまず不可能ですね。

 

文字の無い1枚の絵だけでも漫画だし、「文字だけの漫画」があったとしても「それは漫画ではない」とは言い切れませんし、印刷や配信での大衆文化商品を漫画と言うのが一般的だけど、子どもが紙に書いただけのものも立派な漫画ですし。全部漫画です。

 

「漫画」という言葉を生み出したのは葛飾北斎

 

さらに歴史を遡れば、原始時代の壁画にも漫画の遺伝子は見て取れるし、日本で言うならやっぱり12世紀の鳥獣人物戯画が漫画の元祖ってのがよく言われます。

 

確かにそうだけど、あれは手描きの巻物で、大衆文化とは遠い存在。

 

印刷っていう技術によって大衆文化になったのが北斎の時代で、さらに明治時代には木版印刷から凸版印刷になり流通も発達し、鳥羽絵ポンチ絵とかとも呼ばれ、そして昭和初期にこういうのが全部まとめて漫画という呼び方で定着したと。

 

で、現代の漫画の形式の開拓者の一人は、この本では大正時代の岡本一平だと説いてます。

 

連続する絵+文字でストーリーを描き東京朝日新聞に「人の一生」を連載をしたという。

 

なるほどね。

 

って感じで、漫画の歴史がどんどん語られます。2020年まで。本当に盛りだくさんです。

 

 

 

読んでて特に「なるほど」と思った部分を箇条書きや年表みたいにとにかく書いてみます。

 

1921年

岡本一平「人の一生」

漫画の始まり。

 

1923年

織田小星&椛島勝一「正チャンの冒険」

「正チャン帽」が大流行し、キャラクタービジネスの概念が生まれる。

 

1931年

田川水泡「のらくろ」

軍から出版統制される。

 

1938年

横山隆一「フクチャン」

軍から戦争利用される。

その一環での国威発揚アニメ製作のための軍からの予算が国産アニメの技術を発展させたりする。

 

1945年

終戦。有象無象の出版物が爆発的に増える。

漫画雑誌赤本貸本とか。新聞漫画も発達。

 

1947年

酒井七馬&手塚治虫「新宝島」

藤子不二雄とかの後年の漫画家にとてつもない影響を与える。

 

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1955年

悪書追放運動が起きる。

手塚治虫が徹底的にバッシングされる。

 

1959年

「週刊少年サンデー」「週刊少年マガジン」創刊。少年漫画が発達。

 

1962年

「週刊少女フレンド」創刊。少女漫画が発達。

「ガロ」創刊。劇画青年漫画が発達。

 

1963年

テレビアニメ「鉄腕アトム」でメディアミックスの概念が生まれる。

第1次アニメブーム。

 

1968年

「週刊少年ジャンプ」創刊。

以降サンデー、マガジン、ジャンプ、チャンピオンの4大少年誌はそれぞれ黄金時代を築いたりもする。

 

永井豪「ハレンチ学園」

徹底的にバッシングされ、ぶっちゃけ第2次悪書追放運動。

 

1974年

山上たつひこ「がきデカ」

秋本治とかの後年の漫画家にとてつもない影響を与える。

 

1975年

テレビアニメ「宇宙戦艦ヤマト」

第2次アニメブーム。

 

1978年

柳沢きみお「翔んだカップル」

少女漫画で発達した恋愛漫画が少年漫画に影響を与え少年誌ラブコメの概念が生まれる。

 

1982年

大友克洋「AKIRA」

海外にとてつもない影響を与える。

日本の漫画とアニメが海外に進出するのが普通になる。

同時にバッシングもされる。

 

1986年

さくらももこ「ちびまる子ちゃん」

さくらももこ関連のメディアミックスは日本では比類なき大ヒット例らしい。

 

1995年

ジャンプが653万部発行。ここが漫画の頂点。

 

アニメ「新世紀エヴァンゲリオン」

第3次アニメブーム。

この「第何次アニメブーム」は定義があやふやで言う人によって変わるので注意。

 

1997年

ジャンプ低迷。マガジンに抜かれる。この低迷は今も全ての漫画雑誌でずっと続いている。

 

2002年

ジャンプが首位に返り咲き。以降は4大少年誌はジャンプの一人勝ちが今も続く。

 

2014年

漫画単行本の市場規模が漫画雑誌を上回る。

出版社にとって雑誌より単行本の売り上げのほうが重要になる。

 

2016年

吾峠呼世晴「鬼滅の刃」

この本では、これが超超超ヒットしたのは版元の地道な宣伝活動が最初の一歩だったと分析。

 

2017年

漫画単行本の市場規模で電子が紙を上回る。

紙の本の時代が終わり、電子書籍や漫画アプリの時代になる。

 

 

とまこんな感じです。私がこの本読んで「なるほど」って思った部分は。

 

 

1990年代以降インターネットの発達は当然漫画業界を激変させましたが、この本ではそういう時代の主役は「ポケモン」「涼宮ハルヒ」「初音ミク」「君の名は。」などなど漫画以外の作品だったと。

 

時代の主役は漫画ではなくなったのかもしれません。

 

 

あとこの本では「エロマンガ」「BLマンガ」「同人誌」はほとんど取り上げられてません。(これはまー仕方無いです)

 

それと近年の、漫画村とかの違法サイト問題とか、「宇崎ちゃんは遊びたい」「幸色のワンルーム」などなどが特定の存在から執拗にバッシングされてることとか、行政の有害図書とか出版社ごとの自主規制の謎とかも、記述はほぼ無し。

 

デリケートな問題だけど、だからこそ私見を排除して「こういうことがあった」って事実を客観的に記すことは大事だと思うけどなあー。

 

このへんはちょっと物足りなかったところ。

 

 

 

作者は1960年生まれで、長年編集者をやってて今は文学史とかの大学教授が本職らしくて、昭和の漫画雑誌全盛期を現役で見てきた人で、そのへんを肌で知ってる感じがすごいです。

 

私は前に「サピエンス全史」にすごい感銘を受けたのですが、この本はまさに日本の漫画の歴史でそんな本を作ったって感じでした。

 

すごい読み応えありました。

 

 

 

余談。この本には載ってなかったトリビアを一つ紹介したいです。

 

「正チャンの冒険」の作者椛島勝一の孫は椛島良介

 

かつての少年ジャンプ編集者で「ジョジョの奇妙な冒険」の初代担当でした。

 

正チャンの冒険とジョジョの奇妙な冒険が漫画の遺伝子が繋がってると思うとなんかロマンを感じません?

 

 

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