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「二十六人の男と一人の女」感想 一人のアホが何もかもを台無しにする話

ゴーリキー著 中村唯史役 「二十六人の男と一人の女 ゴーリキー傑作選」光文社古典新訳文庫 って本の中の一本の短編を読みました。

 

どうしようもなく救いのない話で、非常に驚いて感心しました!

 

その清々しいまでの「どうしようもなさ」に!

 

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マクシム・ゴーリキーってのは二十世紀始めごろのロシアのプロレタリア文学の作家みたいです。

 

私は全然詳しくありません。

 

「ゴーリキー」って名前聞いても思い浮かぶのはポケモンって程度に無知です。

 

 

たまたまこの本を見かけて、タイトルにインパクトあってちょっと手に取って冒頭をその場で読んでみました。

 

「二十六人の男と一人の女」って、なになに?

 

アナタハンの女王事件」みたいな話?

 

 

なんてことを連想しながら読んだら全然違ってて物語の超バッドエンドっぷりにポカーンとなりました。

 

この短編集の最初に収録されてる「二十六人の男と一人の女―ポエム―」は、その場で読み終えるくらい超短い話でした。

 

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たったの32ページで終わる話。1899年発表。

 

で、改めてじっくり読み直したのですが、やっぱりすごいと感じた短編小説でした。

 

ただこのブログはあくまで最初のこの一本のみの感想です。

 

 

 

もうネタバレで最後まであらすじ書いちゃいます。

 

 

とあるパン工場で26人の男が働いてます。

 

その労働環境は劣悪の一言。まさにプロレタリアート。

 

仕事は朝6時から夜10時まで。超ブラック。租庸調よりきつい。26人は身も心もボロボロ。

 

 

しかし26人には「生きる希望」がありました。それはターニャという16歳の美少女。

 

パン工場の敷地内には刺繍工場もあって、そこでは大勢の女が働いてるのですが、女たちは26人のボロ男たちを完全に見下して無視してる中、ターニャだけは毎朝パン工場に訪れて26人と笑顔で話してパン1個をせびるのでした。小生意気な感じもまたかわいいと。

 

26人はオーナーには内緒でパン1個を毎日快くあげて、そしてみんな彼女にだけは紳士的な対応をします。

 

彼らにとってターニャは信仰の対象レベルになってました。

 

 

ところで工場には他にもう一つ「いいパンを作る工場」もあって、そこでは4人の男が働いてました。

 

そっちの労働環境は26人とは天と地の差。

 

そっちは仕事も楽で給料も上、食事もよく仕事場は清潔、休日には着飾って遊びに行くけど、26人はひたすらその真逆。

 

4人もやっぱり26人を見下してて不仲だけど、そこの新入りの兵士あがりの男だけは気さくで26人の工場に足を運んで無駄話をするくらいに仲が良くなります。

 

26人も兵士あがりに好感を持ちます。

 

ただ彼はイケメンでキザで自分が女にモテることをすぐ自慢する性格で、26人は「ターニャがこいつの毒牙にかかるのでは」と心配します。

 

しかしそれは杞憂でした。ターニャも兵士あがりもお互いに関心が無いのが会話や観察で見てとれます。問題無し。

 

(つまり兵士あがりにはターニャは特に美少女に見えてない=26人が過剰に彼女を美化してるってことかな)

 

しかし!

 

 

一月ほど経ったある日、兵士あがりが酔っぱらって26人の仕事中の工場に訪れて、刺繍工場の女たちにモテまくる自慢話を始めます。

 

それにウンザリした26人の一人、パン焼き係が兵士あがりにつっかかってしまいます。

 

こいつがアホ!

 

パン焼き係は「お前そんなに女にモテるってんなら、ターニャを落とせるのかよ!」と挑発します。

 

「できらあ!」と兵士あがりはムキになって受けて立ち、彼が2週間以内にターニャを落とせるかどうかという勝負となってしまいます。

 

 

2週間の間26人はハラハラドキドキ。そして運命の日、兵士あがりが昼休みにやってきました!

 

自信満々に「お前らそこの影からあそこの倉庫を見てろ」と言われその通りにすると、倉庫にターニャが一人でやってきて、次に兵士あがりが入ります。

 

そして何分経ったのか(26人はどんな思いで待ってたのやら)、倉庫から兵士あがりが悠々と立ち去り、次にターニャが出てきました。

 

倉庫で二人が何をしてたかは明白。

 

26人は衝動的にターニャの元へ駆け寄り、彼女を取り囲んであらん限りの罵声を浴びせます。

 

ついさっきまで幸せ満開だったターニャの笑顔は一瞬で青ざめて、そしてすぐに怒りに震えて26人の輪からスタスタと立ち去りました。

 

その後彼女は26人の工場に訪れることは二度とありませんでした。おしまい。

 

 

 

なんちゅう話や。

 

こんな物語をたったの32ページにまとめてるのがまずすごいです。

 

それでいて本文は情景とか心理描写とかもふんだんにあります。

 

いやあ~すごいな。120年以上前のロシアにこんな文学があったのかと改めて感嘆しました。

 

 

プロレタリア文学というからには、やっぱりこの物語の主題は26人のつらい日々とかなんでしょうか。

 

でも私はひたすらに「パン焼き係がアホだ」と強烈に思いました。

 

だって、こいつが余計なこと言わなかったら、26人はターニャとも兵士あがりともずっと仲良くいられたし、ターニャはそのうち彼氏も普通にできるかもしれないけど、少なくとも26人が自分らの前で彼女と他の男の関係を見せつけられるなんて仕打ちを受けずに済んだわけだし。

 

そして余計なこと言ったせいで、ターニャは「神聖」でなくなり、地獄のパン工場の唯一の癒しを失ってしまったわけだし。

 

いやまーパン焼き係一人がアホなだけじゃなく責任は26人全員にはあります。

 

ターニャに勝手な理想を押し付けてそれが破れたら罵倒するとか醜悪な面は確かにあります。

 

でも、それでも、パン焼き係は殺人沙汰になってもおかしくないくらいの重罪を犯したんじゃないでしょうか。

 

私がもし25人の中にいたらそれくらい怒りそうな気もします。

 

つうか挑発の段階で必死に割って入って止めます。

 

 

 

突き抜けた悲惨っぷりが、逆になんか笑えてしまう、という我ながら変な感想を私はこの物語に持ったのでした。

 

二十六人の男と一人の女 (光文社古典新訳文庫)

二十六人の男と一人の女 (光文社古典新訳文庫)

 

 

 

 

 

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