「元年春之祭」 陸秋槎著 稲村文吾訳 ハヤカワ・ミステリ って本読みました。
おっ、お前ぇ、頭おかしいんちゃうかぁ!
「三体」や「両京十五日」を読んで中国人作家の作品もすごくいいのがあることを知って、ちょっと読んでみようかなと思って手に取って見たこの本。
裏表紙のあらすじで興味を惹かれました。
紀元前の中国、前漢時代の豪族の娘、於陵葵が探偵役の主人公とのこと。
少女探偵が活躍する物語を期待して読んでみることにしました。
葵は17歳、相棒の貴族の娘露申、葵の侍女小休もみんなタメで、才気あふれる令嬢探偵の葵ちゃん、おっとりとしたワトソン役の露申ちゃん、助手のメイド小休ちゃんが大活躍する(作中に彼女らの容姿の描写は皆無なのですが)美少女探偵団物語を期待してしまうのは人情というものでしょう!
(葵はどうしても「あおい」と呼びたくなるし、小休は「小林」っぽいからどうしても小林少年ポジションを連想してしまいますし)
しかしその期待は冒頭しょっぱなで挫かれます。
葵は露申をやたらと見下してるし、異様に残酷な性格で小休に殴る蹴るの虐待を不必要に加えることが早々に明かされ、私のオタク臭い甘ったるい期待はあっさり打ち砕かれます。
ここで「あ、探偵に人格的欠陥があるタイプなのね」と頭を切り替えます。
しかししかしその頭の切り替えすらもまだまだぬるかったことが真相で明かされて唖然としました。
なんとこの殺人事件は葵の歪んだ気性や方針が元凶で発生したものだったという。
真犯人は小休で、貴族のお屋敷に客人として滞在した豪族の侍女が初対面の貴族を何人も殺してしまったのだという。
マジかよ。そんなん小説でやってええんか。
探偵が元凶で発生した殺人事件。
小休が犯行に至った動機は物語の筋は通ってます。小休は侍女っつうかメイドでも召使いでもなくぶっちゃけただの奴隷で、その奴隷は主人から歪んだ教育と虐待を受けて、歪んだ信念のもとで行われた犯行だったと。ただただ主人のためだけの。
私は理屈はともかく心情的には葵にも小休にもぜーんぜんついていけませんでした。
しかし、かと言ってこの作品に否定的印象は持ってません。「ついていけなさ」を楽しむことはできました。
「頭おかしい奴らの異常な執念」を遠くから「ひえ~」と興味本位で眺めるような満足感はありました。
あとおもしろかったのは「読者への挑戦状」があったところ。いいね~。こういうの、頻繁にあると萎えるけどたまには見たくなります。
親愛なる読者諸君、この謎が解けるかな?
まー私は犯人当ては苦手なので自分で解こうとは思わず普通に読みましたけど。
ただこの謎解きは現代日本人ではちょっと不利すぎるかな~。
古代中国の漢詩や信仰や風習をよく知ってる者でないと微かな違和感に気付くのは難しいでしょうね。
昔は木簡に字を書いてて、書き間違えたらその箇所を書刀で削って書き直すのが普通であり、ただ塗りつぶすのは不自然である、とかね。
しかしまー私はフェアプレイな犯人当てをしたいわけでもないので、このへんも「古代中国ならではのトリック」なのだと新鮮な感覚で楽しむことができました。
満足はできた本でした。
葵にも小休にも感情移入は全くできませんでしたけど、できないことを楽しめました。