創元推理文庫「その裁きは死」 アンソニー・ホロヴィッツ著 山田蘭訳 って本読みました。
うーむ、よくできてるのは間違いないんですが、でも、なんか、私がこれまでに読んで感嘆したカササギ殺人事件、ヨルガオ殺人事件、メインテーマは殺人ほどではなかったと言うか。
おかしいと思ったところが一点ありました。そこ以外は謎解きがすごかったし見どころが多かったし続きが気になったし面白かったんですけどね。
以下ネタバレあり感想。
私がおかしいと思ったのは、グレゴリー・テイラーが死ぬ直前に駅の売店で無作為に買った本と、ホロヴィッツがドーント・ブックスのトークショーでグランジョー警部の罠にはまってカバンの中に無作為につっこまれた本がどっちも同じ小説「破滅界」だったことです。偶然。
さらにこの本はアキラ・アンノが別名でこっそり書いてた、自身の主義とは正反対の低俗小説だったという。偶然。ちょっと偶然が都合良すぎるう~。
もちろんフィクションで都合のいい偶然が起こること自体は決して悪いことではありません。でもこの本ではそれはやったらあかんのとちゃうかなあ。
だってホーソーンがテイラー事故死とプライス殺害が24時間以内に続けて起こったことを「これが偶然のはずはない」って断言してるんだから。
同じ本の中で一つの偶然は起こるはずがなくて別の一つは発生したのは本当にただ偶然だった、ってのは、ちょっと、アレかなあ、と、思いました。
うーむ。細かいことかもしれません。でもほんのちょっとだけひっかかったのは事実。そう思ったってことはありのまま感想です。
あとは……登場人物の名前が覚えにくかったってのがありました。登場人物はイギリス人で人数が多くてさらにそれぞれに姓と名と愛称があるし、あとリチャード・プライスとダヴィーナ・リチャードスンがややこしかったり、この本はなんか妙に覚えにくかったです。他のホロヴィッツの本ではそんなことなかったんですが。
あ、ホロヴィッツが万引きしたって言いがかりは防犯カメラとか指紋とか潔白を証明する簡単な手段がありそうなところもちょっと変かなあ。でもこれは彼が動転してそこまで頭が回らなかったってことでしょうかね。
でもま、これら以外は本当に良かったです。
この本はシャーロックホームズの要素が強くて、ホームズに詳しい人だったらきっと感動も倍増だったと思います。知らない私でも「すごい」と思ったんですから。知らない自分が無念だったほどです。
それはもちろん作者ホロヴィッツがホームズの公式小説を執筆してるからです。でもこの小説の中の登場人物ホロヴィッツは事件の中にちりばめられてたホームズの要素を最後にホーソーンが謎解きしてくれるまで全然気付かけくてそのことに恥じ入ったりしてます。すごい。
ホロヴィッツはあえて小説の中で自分をマヌケに描いてて、天才探偵ホーソーンの足を引っ張ってばかりいて、でもその物語を作ってるのはそのホロヴィッツなんですから、読んでるこっちは現実の彼と小説の中の彼をどう評価すればいいのやら。そんな混乱もこの本ならではの面白さの一つです。
このシリーズは主人公ホーソーンが結構嫌な奴なのですが、私としてはそんなホーソーンに無駄に対抗意識を燃やして余計なことばっかしてるホロヴィッツも割と嫌な奴だと思います。
あーそういえばドラマの相棒をみてたころは杉下に妙に対抗意識を燃やしてる捜査一課の連中を「なんでいちいちキレてんの」と冷ややかな印象を持ってましたっけ。それに近いかも。
マヌケで足引っ張りで、ラスト謎解きの直前に間違った推理をわざわざ読者に披露してホーソーン活躍のお膳立てをするダメワトスン役、を、自ら演じるホロヴィッツ。
ミステリー小説で、作者が小説の中に自分自身を登場させるパターンはそう珍しくないそうです。私も横溝正史の金田一耕助とY先生なら知ってますし。このシリーズはそういうパターンとしても決定版って印象です。
さ。シリーズは現在4作目まで出てます。これで2作読了。あと2作も読むぞ!