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「異常(アノマリー)」感想 読んだこと自体が面白かった

早川書房 「異常 アノマリー」エルヴェ・ル・テリエ著 加藤かおり訳 って本読みました。

 

私は普段読書をそんなにしない人間なのですが、そういう人だからこそ、読書家の人よりも、何も知らずにたまたま手に取った本がいろんな意味で面白かったとき、その感激に慣れてないぶん、より大きく感じられるってこと、あると思います。これはそんな感じの本でした。

 

面白かったっつっても、私はこの小説の全てに満足してるわけでなく、後半は自分が期待してたのとはやや違う展開になって中盤感じたワクワク感が萎んだり、結末は「ん?……(長考)……う~む」ってなったりもしたのですが、でも私にとってはそう思ったこともこの本を読んで楽しかったことの一つでした。

 

それはきっと私はこの本を、何の事前情報も無く完全ノーネタバレの状態で読めたからだと思います。

 

読書家でもない人がそういう本に出会える確率は、普段の読書量の分母自体が小さいんだからかなり低いです。今回はそれが起きました。

 

あと何て言うか、例えば私は有名小説「三体」をまだ読んでなくて今少し興味ある状態なのですが、興味を持ったのは「すごいらしい」って読書家評判を遅れてキャッチしたからで、そのこと自体がどうしても僅かなネタバレを受けることになってるわけです。読書家でもない人はそれを受ける前に読むってことがそうできません。

 

でも今回はそれもできました。イェァー!

 

ただ「僅かなネタバレ」はそれはそれでいいもんですけどね。こないだ読んだ「獅子の門」は「久我重明がいいぞ!」って情報があったから読んだわけだし。

 

 

 

以下ネタバレ無し感想です。しかしこの世に完璧なネタバレ無し感想なんて存在するのでしょうか?

 

もし私のこの感想ブログを読んでからこの「異常」を読む人がいても、その人は私が読んだときとは違い、もう完全ノーネタバレ状態とは言えないんだと思います。

 

「驚きの展開があるよ」という情報はその内容を言わなくても「あるよ」ってだけですでに情報ですもんね。

 

このブログ読むのここでやめて、異常読んでみますか?

 

 

 

さて。最近暑いです。自宅で可能な限り電気使いたくないです。このブログを書く時間を含めパソコンの電源入れる時間も減らしてます。

 

そんなときいい気晴らしになるのが紙の本。これなら自宅でもエアコンつけなくても扇風機(&頭に濡れタオル)だけで余裕です。

 

で、なんか面白い本無いかなと探して見つけたのがこの「異常」でした。全く知らない小説でした。海外の賞を受賞してるすごい作品らしいですが。

 

 

しかしどういう物語なのか、表紙折り返しを見ても訳者あとがきを見てもさっぱり分かりません。

 

 

あとがきには「これより先で、物語の展開に触れています。」なんてあって、さすがにそこから先は読めないし。

 

ということはつまりネタバレ内容がこの本のキモなのだなと察して、意を決して読んでみることにしました。

 

本編は400ページくらいで、読書ペースの遅い私にとっては1,2週間はかかりそうなボリュームです。

 

しかし今回は5日間くらいで読了しました。しかも最初の120ページまでが3日間、あと全部を2日間で読み切った感じです。

 

最初は退屈でした。少し読んでは「もう眠いから今日はここまで」ってなりました。

 

しかし核心的ネタバレ的真相が本格的に語られ始めると、そこからは引きこまれて一気に読みました。

 

 

そこまでは、いろんな人々の人生が細やかに退屈に語られます。殺し屋ブレイク、作家ミゼル、シンママリュシーなどなどかなりの人数。

 

なんで彼らの人生物語が描かれてるのかさっぱり分かりません。いや、完全に分からなくはないです。

 

彼らは全く別の人生送ってますが、同じ飛行機に乗ってすごい乱気流に遭ったって点だけは共通してて文中にさりげなく繰り返し描写されてて、そこは折り返しにも書いてるし、何か意味があるのだな、と、退屈を我慢して読み続けました。

 

そして112ページで初めて飛行機に乗ってない人の話に場面が変わります。そこからが本番!読んでて眠気も吹き飛びました。

 

確率論研究者エイドリアンと、彼が片思いしてる位相幾何学研究者メレディス。この小説は大勢の人々の群像劇だけど、もし映画だとしたらポスターのメインになるのはたぶんこのカップル。

 

飛行機に一体何が起こったのか、なぜいろんな人々の人生が長々語られたのか、真相が分かったときは興奮しました。

 

また、彼らがどこで何したとか語られる際には「2021年6月28日」とか年月日が厳密に記されてることが多くて、それにも大きな意味があったことに気づいて、慌ててページを読み返して、その仕掛けに感嘆したりもしました。

 

ちなみに飛行機エールフランス006便が大西洋上で乱気流に遭い異常事態が起きたのは2021年3月10日16時26分34.2秒の瞬間。そしてエイドリアン始め飛行機に乗ってない人々が異常事態があったことに気づくのは6月24日18時7分。

 

すごいです。この二つの時刻の前後あるいは間に起きた乗客達の記述にはちゃんと意味がありました。

 

 

事件に混乱して必死に対処する研究者カップルや軍や世界の首脳陣の様子も緻密で、時に実在の人物名も出てワクワクしました。

 

ただ、「何が起きたのか」は分かった(SF的な説明もちゃんとありました)けど「なぜ起きたのか」は最後まであんまりよく分からないままで、私としてはそっちの謎解きを期待したけど、この小説の後半は「この異常事態が起きて当事者達はそれからどうしたのか物語」のほうに力点を置いてて、そこは不満ではありました。

 

結末もです。何が起きたのかは、長考の末なんとなくわかりましたが、その結末を起こした人がなぜそうしたのか、なぜその瞬間にそれをしたのかは謎のままでした。

 

しかし私はこの不満点があることも、楽しかったのでした。

 

何のバイアスも事前情報も無しから生まれた、100%純粋に自分が思った感想です。そう思えることが楽しいです。

 

いやー、完全ノーネタバレですごい小説を読むってのは、超面白いことでした。

 

 

あ、いや待てよ。私はこの本を事前情報無しで読んだとか言いますが、厳密には「賞をとった」「飛行機で何かが起こる」などなどを知ってから読んだわけで、これは全く完全ノーネタバレでも無いのかもしれません。

 

完璧なノーネタバレで読書を楽しむって難しいんでしょうね。

 

世の中にはつまんない本も多いです。事前情報無しの無作為で手に取って読んだ本が面白くて感動できる確率なんて、低いです。

 

うーむ。例えば誰か読書家が、自分が読んで面白かった本を、黒いカバーで表紙すら見えない状態で「黙ってこれ読め」って手渡してきて、それ読んだらこういう感動を味わえる確率は高くなるでしょうかね???

 

 

 

 

 

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