例えばこの世のどこかに、ここ数年で火災の被害が増えたって国があるとします。
気候変動での森林火災とか、放火の犯罪とか、化学工場での特殊な事故とか。国民の危機感も高まってます。
できる対策と言えば、全国的に消防の体制を強化して、消防車の数を増やすことがまず思いつきますが、その国ではそれに強固に反対する人達がいます。
その人達は「事前に火災を起こさないことのほうが重要だ!」みたいな主張をします。
その人達は「安全国家」みたいなスローガンを掲げ安全を神聖視し、「消防車を増やすなど、我が国の安全の精神を踏みにじる行為だ」とか「火災ありきで安易に予算を増やすのは許されない」とか「消防車を増やすなんて放火犯を挑発するだけで逆効果だ」とかも言います。
消防士を侮辱したりもします。
「消防士なんて火災を間近で見たいだけの放火魔予備軍だ」とか「消防車がサイレンを鳴らして走ると子どもたちが怯える」とか。
消防署の前でデモとかもします。
「この国に消防署なんていらない」とか「安全国家に消防署なんてふさわしくない」とか。
その人達は政党やその支持組織を持っていますが、その「安全党」は支持率は年々下がっています。
特に10代20代の若者にその傾向が強く、支持者の高齢化が顕著だったりします。
消防車を増やすことに反対する新聞社もありますが、そこの部数も減っています。ただこれは、新聞社はどこも部数が減ってて、消防車を増やすべきと唱える新聞社も経営は苦しいですけど。
その国では「消防車を増やすべきか」の議論は空洞化しています。
「もし自分の家が火災になったらどうするんだ」とか問われても「そうなる前に事前の防災努力で対処すべきだ」とかいうのが安全党の大まかな主張。
あとは「消防車を増やすことに賛成してる奴は、自宅の隣が消防署になってもいいのか」とか言ったりもします。
そういう堂々巡りを何年も続けてる感じ。
一方で安全党の支持者同士の内輪で集まっての活動には熱心。
「安全の力で協力して政権を倒そう」とか。ハッシュタグデモとか。
消防車増やすべき派の人に呼び掛けて説得して賛同者を増やすことはもう放棄して、同士だけで集まって「団結」とかでどうにかできると思ってるふしがあります。
そして火災はその間にも増えていきます。今はまだ実際の被害は小さな規模の火災で済んでますが。