横溝正史「死仮面」 春陽文庫 って本読みました。
言わずと知れた金田一耕助の横溝探偵小説シリーズです。この本には表題の「死仮面」と「鴉(からす)」の2本収録されてて、どっちも昭和20年代の終戦直後の超古い小説です。
そういう小説ってたまに読みたくなりません?
私は若い頃は江戸川乱歩はかなり読み漁りました。
でもそのころは横溝作品は全然読みませんでした。
その理由はなんとなくなのか、「俺は乱歩派だ!」ってかぶれてたからなのか、今となってはあんまり分かりませんが。
でもここ数年で少し読むようになり、乱歩と共通してるところや違うところを楽しむようになってきました。
二人は「方向性が少し違う変態」だと思います。
また金田一耕助と明智小五郎って、どうでもいい人にとっては区別つかないと思いますが、両方読むと両者の違いも如実になってきてすっきりします。
両者は髪の毛がモジャモジャ頭だという共通点があり、その一点の共通点がなぜか際立って区別をつきにくくさせてる感もあります。
で、この本ですが。収録の2本足しても「八つ墓村」や「犬神家の一族」みたいな長編よりも短く本当にどっちも短編です。
でもどっちも、短い中にも、私がなんとなく思う「金田一耕助シリーズってこういうノリだよな」って要素が満たされてて結構読み応えありました。
言葉でうまく説明できないのですが、昭和レトロ探偵小説とでも言うのか、「いかにもって感じの金田一小説軽く読みたいな」という気分のときに最適だと思いました。
まず死仮面のほうは、ある日金田一の事務所のもとに美女が超不可解な手記を持って訪れます。
そして依頼された先は都内の女学校!
金田一のお約束的舞台たる田舎の閉鎖的な村ではないですが、閉鎖感とおどろおどろしさはバッチリあります。
そうそう結局金田一耕助とか読みたがるような人ってそういうのが好きなんでしょ?
っていう満足感です。
今回はそれに加えてお嬢様女子高生の寮で怪事件が起きるので新鮮でもあります。
でもちゃんと謎の殺人事件とか不気味な老人とかそういう要素はちゃんと外しません。
で、もう一つの「鴉」のほうは、こっちは田舎の村です。
そして死仮面のほうは「女子高の寮」っていう舞台のわりにはエロと言うか若い女の生々しさみたいなのは比較的無かったのですが、こっちのほうはそういう空気が濃くて、それもまた金田一シリーズの魅力でしょうかね。
こっちもこっちで不可解な行方不明事件が起こり、もちろんそれが起きたのは田舎の金持ちの豪邸で、美人の奥さんとか美少女の女中とかがもちろんいて、実に手堅い金田一舞台を見せてくれます。
ま、今回の本は二つとも「あっと驚く展開」は特に無いので、物足りないと言えばそうなのですが、短い小説にそこまで求めるのは過剰かなと思いました。
満足度はなかなか高かったです。
気軽に読めていい感じでした。
しかしまー、金田一耕助ってのは、同じモジャモジャ頭でも明智小五郎とは大きく違い、見た目や口調はは本当にさえないですね。
頭を掻いてフケをまき散らす癖とかは今見ると普通に不潔ですし。
でも明智だって若い頃はヨレヨレで似たような容貌だったので、やっぱりちょっとややこしいかも。
それにしても同じような時代に交流のある小説家同士が似たような名探偵キャラを創造したのが、今思うとなんか興味深いです。パクリとも違う感じがします。
その後は明智のほうはスマートな紳士のキャラになっていって差別化ができていくのも、なんか面白い現象に思います。
昔の探偵小説楽しいわ。