新潮文庫 伊東ひとみ 「キラキラネームの大研究」って本読みました。
キラキラネームとは何か、なぜ増えたのかを「子どもにバカな名前つけるバカ親!」みたいな批判的視点を捨てて、すごい虚心坦懐に追及する本で面白かったです。
キラキラネーム(またはDQNネーム)は説明するまでもなく子どもにつけられた変な名前のことですが、作者は2010年に「光宙(ぴかちゅう)」というキラキラネームを初めて知って衝撃を受けたそうです。
そこからしっかり研究しようとしたんだから偉い。
調査の結果、2001年ごろの記事は発見できたけど、光宙という子は実在するのかは全く不明で言わば都市伝説の類ではないかと記しています。
というのも19世紀に「勘解由小路 光宙」という実在の人物がいて、それを元ネタにした創作っぽいからだそうで。
「かでのこうじ みつおき」と読みます。「かでのこうじ」で一発変換で「勘解由小路」が出てきました。
こんな感じの小ネタ情報がいくつも紹介されてて退屈しない本でした。
しかし光宙が実在するにせよしないにせよ、世の中には変な名前の子どもが確かに実在します。
「空詩(らら)」とか、「希空(のあ)」とか。
私も確かにこういう名前見ると「あ~キラキラだなあ~」と軽蔑の感情が沸くものですが、しかし、どこまでか常識的な命名でどこからがキラキラなのか、またいつからキラキラ化しだしたのか、その境界線は非常に曖昧です。
それは私もうすうす思っていましたが、この本では明確な調査と見解が記されてて読んでて「なるほど」と感心するところが多かったです。
古風な名前の例で「和子(かずこ)」が出てたのですが、「和」を「かず」と読むのってよく考えたら変です。
「源頼朝(みなもとのよりとも)」も、「朝」を「とも」と読むのは変です。
「和泉(いずみ)」は、「泉」だけで「いずみ」と読めるから「和」がつくのは変です。
「子どもに変な名前をつける親」というのは鎌倉時代の昔からいて、(というか日本以外も世界中に普通にいて)そんなに珍しくないことです。
そもそも日本語の漢字と仮名はめっちゃ懐が深くて、置き字、当て字、熟字訓、名乗り、外国語読み、さらにそれらの合成、切り取りと、子どもの名前につけるバリエーションはまさに無限。
「希空(のあ)」だって、希の「のぞみ」から「の」を、「空く」から「あ」を切り取って合成すれば成立するわけです。
普通です。
しかし、キラキラネームがここ数年で急増したのは一体なぜか?
作者は「常用漢字表」にその原因を見出しています。
1946年に、それまで5万字はあった漢字を1850字に減らした「当用漢字表」を発表しました。
古い難しい漢字は由来とか意味とかをかなり強引にブツ切りにした簡単な代用字に変わりました。
「戀」が「恋」になるみたいな。
当用漢字表はそのあと1980年に常用漢字表にバージョンを変え、つまり1980年以降の世代は産まれたときから常用漢字しか知らない世代で、漢字の由来とか歴史とかを肌で感じなくなった世代だと。
それ以前は当用漢字表以外の古い漢字がまだ世の中に多少残ってるのを目にしたけど、もうそういうのも廃れて世の中どこを見渡しても常用漢字しかない世界で生きてる世代です。
そして理由がもうひとつ。
「たまごクラブ」です。
あの雑誌は子どもへのキラキラネームにかなり肯定的らしくそういう参考書を出してて、出産前のママさんに売れてるんだそうです。
まー、この二つだけではなくいろんな理由が複合的に重なって今のキラキラネーム台頭の現象を生んでるんだろうとは思いますが、私はこの本読んでて結構納得がいきました。
別にヤンキーでもない平均的な若い夫婦が子どもに変な名前をつけるのも、それが平均的だからこそ起こってるのだと。
今はまだ人名漢字に認められてないけど、要望が多い漢字に「腥」とか「胱」があるんだそうです。
「腥」は「なまぐさい」と読むのに、月と星で構成されてるからキラキラしてる漢字らしいです。
「胱」も「膀胱」のこうなのに、月と光だからこれもキラキラ。
そのうち「腥」も「胱」も「僾」とか「惷」とか、本来悪めの意味なのに、そんな古い意味とかおかまいなしで、部首がキラキラだからって理由で人名漢字に認められる時代が来るかもしれません。
まー、私自身も今やほとんどの漢字を何も見ず手で書くことができなくなってますし、偉そうなことは言えない立場です。
面白い本でした。
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