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「三体Ⅱ 黒暗森林」感想 羅輯は羅漢であった!!!

早川書房「三体Ⅱ 黒暗森林」 劉慈欣著 大森望、立原透耶、上原かおり、泊功訳 って本読みました。

 

超面白かったです。星10です。私は普段読書するときに別に星つけたりとかしないんですけど、そうしたくなるくらいの大満足でした。

 

本当にすごかったです。驚いたし感動したし、あと途中で主人公に「お前何考えてんの!?」ってつっこみたくなるところもあって、そこも面白かったです。

 

三体シリーズ、1巻が面白かったので、「こりゃ全部読むしかない!」と意気込んで2巻も読んだわけですが、面白さパワーアップしてました。

 

何気なく読んでみた本が予想以上に素晴らしくて感動することはちょいちょいありますが、2巻は読む前から期待値が高かったのに、それをさらに上回ってたのがまずすごい。

 

2巻上下を読み終えての感想です。3巻はまだ全く手を付けてない状態です。

 

 

副題は「黒暗森林」。奥付によると「こくあんしんりん」と読むそうです。中国語だとgoogle翻訳によれば「ヘアンスンリン」って感じ?

 

黒暗はたぶん日本語の暗黒とほぼ同じ意味。

 

中国語のオリジナル版の副題「黑暗森林」を日本版でもそのまま使ってて、私は「暗黒森林にしたほうが日本語感覚的に馴染みやすいんじゃないの?」と思うと同時に、「黒暗森林っていう馴染みの無い感じもそれはそれでかっこいいな」とも思いました。

 

こうやって原題と邦題を見比べるのも、訳者のセンスを感じて楽しいもんです。今回は「変えない」というセンス。

 

それでふと思い出したのが、全然関係無いんですが、「ハリー・ポッターと謎のプリンス」。あれの原題は「Harry Potter and the Half-Blood Prince」で、普通に訳すなら「混血のプリンス」だけど、混血って言葉がセンシティブなのか知らんけど、それを避けるために変更するのはまーいいとしても、それでひねり出した言葉が「謎の」ってどうなのよ?……なんてことを昔思ったことがありました。

 

それはどうでもいいですが、翻訳といえば、今作の主人公の名前は羅輯(ルオ・ジー)で、前作主人公の汪淼(ワン・ミャオ)に続いてまたもや全然馴染みの無い中国の漢字が入ってます。

 

(ただは日本にも存在する漢字で「しゅう」と読んで「集める」みたいな意味だとか)

 

私はこの本読んでて羅輯って文字が出てくるたびに、漢字に馴染みが無さ過ぎて、これを「るおじー」とも「らしゅう」とも読むことができず、私の脳は勝手に「らかん」と読みました。

 

これは単に羅って文字から「羅漢」を連想しただけです。

 

私は前作の汪淼も勝手に「おうもり」と読んでましたし。

 

これは、私の脳は、知らない漢字の中国人の名前は、勝手にあだ名をつければ格段にスラスラ読みやすくなるからそうしてるだけのことです。

 

 

 

さて、以下ネタバレあり感想です。

 

 

 

そう、人は自分の脳内だけでなら、物事を勝手に考えて自分の思いたいように思うってことを、いくらでもしていいのです。

 

脳内世界最高~。

 

本作でも羅輯はものすごい脳内世界を見せてくれました。

 

脳内彼女脳内作戦

 

羅漢っていうあだ名もあながち見当はずれじゃないかもしれません。

 

 

 

さて、主人公羅輯は、優秀なイケメン科学者ですが、学問にも女にも人生そのものにもだらしなくて、そのくせ気取ってて、決して好感の湧かない人物でした。

 

そんな彼がこの物語の主人公になってしまったのは、恩師である前作主人公の一人、葉文潔と偶然出会い、短い会話をしたから。ほんの小さな運命のいたずらでした。

 

この会話をした時点での文潔はETOのボスで「人類滅びろ!」思想の人だったのに、なぜわざわざ地球人に三体人を攻略するヒントを与えるようなことをしたのかは、謎。

 

これはもしかしたら、彼女自身もこれが超重要会話であることが分からなかったか、あるいは彼女は、自分が死ぬ前に、生涯をかけて自分の脳内で考え続けたことを、敵味方関係なく、見どころがあるかもしれない誰かに話して受け継いでほしかったのかもしれません。

 

後者っぽいですが、彼女の心は分かるような、分からないような。しみじみ。地球をシッチャカメッチャカにした張本人。

 

 

 

で、この会話は智子にも聞かれてたと。

 

そういや私は前巻の感想ブログで「智子(ソフォン)」をどうしても「ともこ」って読んでしまう」的なこと書いたのですが、2巻では本文中にそういう記述があったことにめちゃくちゃ笑いました。

 

もう智子は完全にともこちゃんですわ。

 

この物語では日本人の登場人物も何人かいますが、作者は日本人の人名にも造詣があるのねー。なんでも知ってるすごい人って感じです。銀河英雄伝説とか出てきて驚いたし。

 

話を戻して、この会話は、このプロローグと物語真ん中あたりそして最後にも出てきて「なるほどなあああ!!!」と思わせてくれて本当に激エモでした。

 

 

 

そしてこの会話の後、羅輯は面壁者にされるべく史強に捕まって、その飛行機内で急に謎の回想が始まるわけですが、このへんは読んでて困惑の極みでした。

 

 

羅輯は空想の中で自分の理想の恋人を想像(創造)して、それに本気で惚れ込んでしまう様子が念入りに描写されてて、「これは一体なんなんや」と。

 

上下巻読み終わって意味は分かっても「ん?ん~、でもお前それにしたって、いや~、うーむ」と、今でも思ってます。変態です。

 

なんでしたっけ。こういう脳内彼女、古代とか中世とかでもこういう概念はあったみたいなのを聞いた気はしますし、現代でも「キモオタの妄想」として珍しくはない感じもします。私自身にもこういう発想が無いとは言いませんし。

 

でも、現実の女に不自由してないイケメンインテリが超ガチでそういう妄想に取り組む姿はキモオタのキモさとはまた別種の、見たことのないゾワゾワを感じました。

 

 

しかもこのゾワゾワは面壁計画が始まってさらに加速されます。いやこの妄想がそもそもその前フリでしかなかったという。

 

羅輯は史強に「僕の脳内彼女に完璧に合致する女性を現実世界で探し出してつれてきてくれ。これは面壁計画の一部だ」と依頼し、お前、そんなの依頼するだけでもおいおいおいって感じなのに、史強はよりによってその依頼を完璧に遂行してしまいます。

 

容姿、性格、育ち、何もかもが羅輯の好みに合致した女性荘顔を見つけだし連れてきてしまいます。

 

都合よくそんな女が実在したことはおかしいとは思いません。中国の何億人もいる中に条件に合致する女は彼女どころか10人か20人くらいいても不思議ではないと思います。

 

で、史強はマッチングした候補者達からさらに、(面壁計画で有名人になった)羅輯に好意があって彼と結婚してもよいと思ってる乙女、を、絞り込んだわけですよね。それが荘顔、と。

 

しかし彼女は、羅輯のもとに嫁ぐ前に、面壁計画の主催者側の国連事務総長セイからいろいろと聞かされて、羅輯に面壁計画を真面目にやらせるための人質というかハニートラップというかスパイというか、自分自身が彼のモチベーションとなる任務を与えられ、了承し、そのうえで彼の隠れ家で同居し恋人同士になって抱かれて結婚して子どもを産んだ、と。

 

ひょえ~。

 

このへんのシーンでは私も読んでてヘナヘナってなりました。作中の羅輯と一緒に。

 

まず真っ先に思ったのは「まさに中国!」って印象。これをハニートラップと言っていいのかは微妙ですが、中国人が誰かを罠にはめるときまさにこういう発想しそう~。中国文学の神髄?

 

いや、というか、これは罠とかいうよりも何から何まで羅輯が自分で望んだことですが。面壁計画を私物化して、理想の彼女といちゃいちゃしたい、性欲を満たしたい、という願望を満たすための。

 

俗物の極み。

 

国連に用意してもらった隠れ家に住んで贅沢暮らしして「彼女を守りたい」とか、お前、何一つ自分の力で彼女を守ってもおらんやんけ!

 

そして案の定国連に彼女と産まれた幼い娘を取り上げられ、羅輯はようやく真面目に面壁計画に取り掛かります。

 

私は読んでて「理想の彼女といちゃつきたい」「現実逃避したい」という願望そのものは理解できる気持ちと、「だからってお前……」と恥ずかしさのような謎の感情が混ざり合って、私にはそれもすごく面白いことでした。変な笑いが出る感じのやつです。

 

 

 

そして、脳内彼女に並ぶこの小説のもう一つの脳内世界、面壁。

 

こっちもこっちで面白かった、というかこの小説の面白さのメインはこっちです。

 

心を入れ替えて立ち上がった羅輯には頑張れって気持ちも湧きました。

 

その物語の骨組みはエンタメの基礎でがっちり固めたって感じの安定感がありました。

 

彼が国連の会議に呼ばれ「これから面壁者を発表します」と聞かされ彼が「誰がなるんだろう」とか呑気に考えてるところとか、読んでて「で、彼が指名されて慌てるわけね」と思いましたし、彼の他に指名された3人の世界的有能有名人面壁者達のまっとうな軍事作戦は「失敗するわけね」と思いましたし。

 

あと彼が世界中の人々から嘲笑されたり英雄視されたり憎まれたり、やたら激しく落差があることも「最後の最後で彼が大逆転で作戦成功するわけね」と思って、そしてその期待通りになったわけで。ザ・エンタメ。

 

またその途中にも、「面壁者 VS 破壁人」とか、3人の面壁計画が失敗する物語とか、2巻のもう一人の主人公章北海の人生とか、200年後の世界のSF世界観とか、さまざまな要素が面白かったし、またどれもが意味があって羅輯の計画に繋がってて、点と点が繋がってくのも激アツでした。

 

 

 

彼の面壁計画、呪文

 

上巻の終わりで、彼が地球とも三体世界(アルファケンタウリ)とも無関係の、遠く50光年離れた恒星群187J3X1の位置情報を記した信号を、かつて文潔がやったように全宇宙に向けて光速で発信した作戦。

 

読んだときはそれがどうなるのかさっぱりでした。

 

下巻の後半で発信の150年後に187J3X1が破壊されたことが判明しても、さっぱり。

 

私と同じく「分からん」と言う史強に、羅輯が「黒暗森林」理論をようやく解説してくれる場面がありました。

 

でも、私はそこで黒暗森林を理解できても、そのせいで地球でも三体世界でもない宇宙に潜む別の文明が187J3X1を破壊したことが理解できても、それで三体の侵略問題はどうなるのかは(史強は察したようだけど)、それでもさっぱり。

 

私が理解できたのは本当に最後の最後。

 

羅輯はこれで三体人と交渉するつもりだったことが判明して私はマジで感動しました。なるほどなあああ!!!

 

しかもレイ・ディアスゆりかごシステムと不完全な斑雪計画も意外なことに使われてて驚きました。すごい伏線回収。(他にも水滴の襲撃から生き延びた艦隊が殺し合った際に「猜疑連鎖」って言葉がさりげなく出てきたときとかも「んお!?」って思いました)

 

太陽を水滴に封鎖されても、それでも宇宙に「ここの座標に文明があるぞー!」と信号を全宇宙に送れるようにする作戦を、羅輯は本当に自分の脳内だけで実行して成功させました。

 

彼が地球内での地位を急速に失って人々から辛く当たられボロボロになってったのも、その様子を智子を通じて三体人に見せて油断を誘うことになってたわけですよね。ボロボロになったのは演技ではないでしょうけど。

 

すごいぞ!羅輯!これぞ面壁計画!

 

 

私は普段漫画をよく読みますが、「こんな奴どうやって倒せばええんや」っていう超すごい強敵を、主人公があっと驚く作戦で倒したりすると本当に感動します。

 

例えばジョジョ4部の吉良吉影とか。進撃の巨人のシガンシナ区奪還戦とか。

 

この本はそういうのの最高傑作でした。私にとっては。

 

 

あとは、2巻は1巻よりも「中国ならでは」って世界観を強く感じました。

 

地球の危機の物語に中国人が中心になってるところがそうなのではありません。そんなのは日本の漫画なら日本人が中心になるし、アメリカの映画ならアメリカ人が中心になるに決まってますから。

 

それよりも、近未来では国や言語や軍隊のありかたも大きく変化してる世界観ですが、なのに「逃亡主義」とか「敗北主義」とか思想的に妙に圧の高い用語があったりとか。タバコがやたら出てくるとか。美女の扱いもなんか中国ドラマっぽいというか。なんか、細かい随所に。

 

こういう、うまく説明できないけど、日本人やアメリカ人とかでは発想しなさそうな感じも、私にはとても新鮮でした。

 

あ、でも、美女に関しては、なんか例えば三国志とかの女性キャラをみんな美女揃いにする、みたいなのはむしろ日本的な発想でしょうかね???

 

 

 

そしてラストシーンでは、妻と娘と再会して穏やかに暮らしてる羅輯のもとに、1巻に出た監視員三体人が通信してきて、ささやかな希望を感じさせるエンド。ちょっとジーンときました。

 

え?あれ?これで完結じゃないの?

 

めでたしめでたしじゃないの?

 

3巻は何が描かれるっての?

 

何か別の大問題が発生するのでしょうね。3巻は最大に分厚いことは知ってますので、きっととんでもないことが。

 

めちゃくちゃ楽しみです。

 

主人公は新キャラ?

 

そういや1巻の主人公汪淼は2巻に全く出てきませんでした。彼は冬眠もせず普通に老衰で死んで退場してましたね。

 

 

 

 

 

 

 

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