トーマス・トウェイツ著 村井理子訳 「ゼロからトースターを作ってみた」 飛鳥新社
とあるイギリス人が電気トースターを手作りすることに挑戦した記録です。
表紙にあるなんかキモイ黄色い物体が作者が作ったトースターです。
参考にした市販の普通の電気トースターがこれ。
本当にありふれたトースターで値段は2008年で4ポンド(約500円!!)ととても安い物です。
手作りするのにかかった費用は1187ポンド(約15万円)だそうです。
作者は一番安いトースターなら作るのも一番簡単だろうと根拠無く思い込んでこれを選びました。
そして解体。
徹底的に細分化したら400個の部品になりました。
これを手作りで再現しようというのです。
そもそもなぜ家電を手作りするのか?
現代社会ではあらゆるものが大量生産されて安く買えるけどそれを個人の能力では到底作れないってことを自ら身を以って体験したかったって感じです。
そしてなぜトースターなのか?
作者にとってトースターこそがこの世で「あると便利だけど別に絶対必要なものじゃなくて安いから簡単に買えるし少し壊れたらすぐに捨てれるもの」の象徴だから。
この世で絶対必要なものと必要でないもののちょうど中間地点に存在するものらしいです。
「手作り」っていうのは具体的にどこからが手作りなのかは、ルールが冒頭に書かれていました。
- 原材料は土から掘り出す
- 産業革命前の道具のみを使う
- ただし馬車を自動車にするとか手動ドリルを電気ドリルにするとかみたいな原理は同じで時短になる現代技術を使うのはOK
そんな感じでトースター作りがスタートします。
鉄、マイカ(耐火断熱材)、プラスチック、銅、ニッケルと順番に調達していきます。
しかしその工程がグダグダの一言。
最初の一歩の鉄鉱石は国内のかつて鉱業が盛んだったけど今は観光地になってる鉱山に行って、そこの人から鉄鉱石を貰ってきます。
自分で掘りませんでした。
さらにそれを溶錬しようとしてその道具に電子レンジを使ってしまいます。
(最初は溶鉱炉を手作りしたけど失敗したから)
ルールもくそもありません。
ただそれが笑えます。
基本的にこの本は文体がめちゃくちゃ軽いです。
イギリス人のブリティッシュジョークのノリです(翻訳がうまい)。
あるいは探偵ナイトスクープみたいな感じ(この番組は昔見てただけなので例えが的確なのか自信はありません)。
プラスチックとニッケルの調達の過程はもっとひどいです。
笑えます。
失敗と妥協の連続です。
そしてできたのが上の画像の表紙のあれ。
参考にしたトースターは部品が400個でしたが作者が作った部品の数はたったの21個!
スイッチも絶縁体もありません。
手作りの電気プラグは不安でしかない…。
なんていうか…イギリスの階級社会で上の方にいそうなそこそこ金持ちの大学院生が余裕ある生活の中で半分悪ふざけで作ったパフォーマンスという匂いがプンプンするのですが、しかしこのトースター作りは笑えるし、大量生産大量消費社会への皮肉も訴えます。
500円で買えるトースターですが、製造販売にかかっている全てのコストがその値段に含まれているわけではなく、二酸化炭素や廃棄物を出して製造されるそのツケを人類は無視しているのだと。
作者は自宅の裏庭で作業した際に熱や煙や悪臭と戦ったけど、市販のトースターだって作るのに(捨てるのに)熱や煙や悪臭が地球のどこかで発生しているのだと。
うーん、なるほどね。
笑えつつちょっと考えさせられて、188ページがあっという間に手軽に読めてなかなか面白い本でした。
この本も図書館で借りてきました。
- 作者: トーマス・トウェイツ,村井理子
- 出版社/メーカー: 飛鳥新社
- 発売日: 2012/09/14
- メディア: 単行本
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