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「小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団」感想 瀬名秀明のドラ愛が数奇な形で凝縮された怪作

小学館文庫 瀬名秀明「小説版ドラえもん のび太と鉄人兵団」って本読みました。

 

その名の通りドラえもん映画の小説なのですが、なんか子供向けなのか大人向けなのかよく分からない謎の小説って感じでした。そしてそれ自体も面白かった点の一つです。

 

作者は瀬名秀明。またえらく本格的な有名作家が出てきたな。それもその筈で彼はドラファンとしても有名です。私も聞き覚えあります。

 

そんな彼が描いたドラの「公式二次創作」です。

 

かなりガチの。

 

世の中、有名漫画の小説版を意外な有名小説家が執筆するってのはたまにあります。

 

例えばジョジョの奇妙な冒険では乙一とかが書いてたりしてます。あとバキの小説を夢枕獏が書いててその組み合わせにめちゃくちゃ納得がいったり。

 

ドラの場合は瀬名秀明と。

 

で、この小説は「映画のノベライズ」とは少し違います。

 

1986年の映画「のび太と鉄人兵団」、2011年の映画「新・のび太と鉄人兵団 〜はばたけ 天使たち〜」を小説にしたというより、原作の大長編を元に瀬名が大いに独自解釈や補完を組み込んだ瀬名版鉄人兵団って感じです。

 

ドラ映画のノベライズなら新恐竜とか宝島とかでそういうのが発売されてますが、それらとは別路線な存在。

 

 

瀬名作品と言えばやっぱり「パラサイト・イブ」で、確か他にも少し読んだ記憶が朧げにあります。

 

なんか、科学的かつ変態的ってのが瀬名作品の私なりの勝手な印象。

 

この鉄人兵団にも、それはいかんなく発揮されてました。

 

特に、この作品の名キャラリルル美少女型ロボットなので、その描写がやたら念入りで、私はそこに笑って、かつ、共感したりもしました。

 

リルルの外見はまさに「地球人が美しいと思う容姿」という設計なわけで、それが完璧すぎるからかえって人間離れしているという見解はすごく納得しました。

 

ついでに言うと、そのへんのことはさらに、作中ではスネ夫が「だからこそリルルは危険だ」「敵ロボットは破壊したのにリルルだけ特別扱いするのはおかしい」と指摘するシーンもあって「そこまでつっこむのか!」と驚きました。

 

 

そしてドラえもん自身がロボットであることにも作中で少し触れられていて、そのへんは鉄人兵団のテーマでもある「心(良心)を持つ人工知能」にも繋がっていて、将来、人とAIのより良い未来への希望のようなものも感じさせる、心憎い演出にもなっていてお見事です。

 

 

 

この本が発表されたのは2011年震災の直前で、結構前なんですね。でも文庫化したのは今年で、その間これが出るまでにきっといろいろあったんだろうなあー。

 

で、小説の舞台も2011年で携帯電話とかも出てくる世界観で、そのへんに関して私は今更ながらドラという作品のサザエさん時空についても改めて妙な感覚を持ちました。

 

原作ではドラえもんがのび太のもとにやってきたのは1969年

 

のび太達は42年間ずっと小学生をやりつつ、でも世界の年月は進みつつ、2011年には2011年の小学生をやっているわけです。

 

なおかつ、のび太達には過去の記憶が残ってて作中で宇宙開拓史大魔境の思い出が語られる場面とかがあります。

 

つまり厳密にはサザエさん時空とも少し違う世界観で、のび太達の記憶は完全にリセットされるわけではなく、言わば「ドラえもん時空」な世界観です。

 

これはこれで、おかしいとか矛盾とか言うより、そういう世界観だからこそ描ける物語が作れたり、おかしさ自体が楽しみ方の一つだったり、むしろ有意義でいいことだと思います。

 

 

ただ若干気がかりなことはありますけどね。

 

鉄人兵団には登場しないキャラですがセワシは2115年生まれで、彼がドラえもんを派遣するのは2125年と設定が決まっているそうです。

 

セワシはのび太の玄孫(孫の孫)なわけですが、この設定は1969年なら自然だけど2011年ならもう苦しいかな。

 

ドラという作品がさらに今後も何十年も存続するなら、いつか野比家の家系図あたりも設定変更される?

 

これまでにもドラは設定変更されたこといくつかあります。

 

例えば昔はドラえもんの体内には原子炉があるって設定でしたが、今はもう無いそうです。

 

そしてそう設定変更されたきっかけが、まさに震災。

 

震災がドラに与えた影響をいろいろと想像させる小説でもあります。図らずも。

 

 

 

あとこの小説の大きな特色は、星野スミレの登場です。

 

彼女のことは元々知ってました。「パーマン」パーマン3号ことパー子

 

 

ドラ世界では大人の芸能人として原作にも登場し、つまりドラ世界はパーマン最終回の10年後くらいの世界観ってことですが。

 

瀬名もものすごいことをしたものです。

 

確かにスミレはれっきとしたドラキャラですが、鉄人兵団に本来関係無かったのに登場させるという。

 

そのやりたい放題も読んでて面白かったです。

 

何より彼女の登場が原作のいい感じの補完になってて感嘆しましたし。

 

 

 

またドラ道具の科学的な考察が作中に何度かありそこもドラオタ全開って感じでした。

 

鉄人兵団では「逆世界入りこみオイル」により鏡の中の世界が主な舞台になりますが、それにおいて「人は鏡の中の左右逆の世界をなぜ「左右逆」と認知するのか」とか「分子構造が左右逆になると別の分子になるのではないか」とかについて解説があり、そのへんも笑いつつも納得して読みました。

 

 

こういう考察はやり過ぎると「空想科学読本」みたいになっちゃいますが、その数歩手前くらいの加減になってます。

 

 

 

本当にいろんなところがマニアックな小説でした。瀬名の重度のドラオタっぷりが際立ちます。細かいドラトリビアも随所にあります。

 

あと「子どもが何日も帰ってこないときの親の気持ち」とかが語られることがあって(かつてのスミレにはコピーロボットがあったこともうまく絡ませて)、原作で藤子F不二雄が力点を置かなかった部分に独自の補完をしてることも印象的な小説でした。

 

全体的にとても素晴らしい小説でした。

 

 

しかし、瀬名はこれを執筆したときは、自分の他にも様々な名高い小説家がドラ小説を書いてくれてシリーズになることを期待したそうですが、それは実現しなかったようです。たぶん震災の影響で。

 

やっぱりそのへんにちょっとしみじみする小説でもあります。

 

でもそもそも瀬名と同等以上にドラに造詣が深い作家とかそうそういないんじゃない?

 

 

 

 

 

 

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