などなどブログログ

漫画の感想や日記などなどを。

「毒の恋」感想 金持ちだったことが不幸

毒の恋 POISON LOVE 7500万円を奪われた「実録・国際ロマンス詐欺」」 井出智香絵著 双葉社 って本読みました。

 

これはすごかったです。タイトルの通り詐欺に遭った人の被害体験談で、犯罪の手口は非常にありきたりなのに被害額が甚大で、被害者の作者が愚かで不快で同情する気持ちが湧かなくて、それらも確かにすごいことなのですが、私が感心したのは、作者が執筆時74歳なのに文章が巧みで読み応えがあること、作者は自分がいかに愚かだったか自覚してるわりにいまだに自分に酔ってる節が見えてそれ自体がすごい「見世物」になってること、そして心が全然折れてないバイタリティです。この人すごいわ。

 

70歳のばあさんがネット越しの50歳イケメン外国人スターに惚れ込んで3年間金を貢ぎまくる物語です。

 

人は誰にでも愚かな面があり、詐欺に遭う危険は誰にでもあり、私自身も詐欺被害ではないけど過去に馬鹿をやらかして数十万円を失った経験はあるし、哀れな詐欺被害者に偉そうなことを言う資格は誰にもありません。

 

しかしそれにしたって被害額がまともじゃないです。読んでて「色ボケばばあ」「頂かれ女子チカエちゃん」「特級呪霊」などなどのひっどい言葉がどうしても頭に浮かぶ……ってのも人間としての正直な感情です。

 

 

それに、世の中には多種の詐欺があり、狙われたら防ぎようのない高度な詐欺もあれば、騙されるほうが馬鹿な超低レベルの詐欺もあり、これはかなりレベル低いほうです。

 

でもこれもなあ~、絶対に隙の無い人もこの世にはいないわけで、何かの瞬間に付け込まれたら低レベル詐欺にもひっかかるかもってのはあるんです。

 

私自身の体験として、以前メールボックスにamazonからの正式なメールとamazonを名乗る詐欺メールが偶然ほぼ同時に送信されて受信箱一覧にぴったり並んでたことがあって、私は思わず両方を熟読して、普段なら詐欺メールなんて一瞬で分かるのに、片方が詐欺であることを理解するのに数分を要した、ってことがありました。

 

これが私が詐欺にひっかかりそうになった唯一の体験談で、その理由は全くの偶然で、「世の中には詐欺にひっかかりそうになる偶然の瞬間は誰にでもあるものだ」と理解しました。(ひっかかりそうになると実際ひっかかるには雲泥の差がありますがそこは省略)

 

しかしそれでもやっぱりこの本のケースは被害額が理解の妨げになります。うっかりとか隙を突かれたとかでは説明がつかないレベルの額です。7500万円って。

 

読み終えても「なんでこの人はそこまでの額を貢ぎ続けちゃったの?」の疑問はすっきりしなくて、本人は「愚かだった」「まともな判断がつかなくなってた」みたいなことを何度も繰り返してるんですけど、全然腑に落ちません。

 

しかも作者は男に騙されるのはこれが初めてじゃなくて、元夫にも散々金を貢ぎ続けてた過去があると知ってポカーンとなります。

 

ってことはもう、なんていうか、生まれつきそういう体質の人だったとしか解釈できません。世の中誰にでも詐欺に遭う可能性はあるとは言いましたが、一生騙されることのない人もいれば、何度も騙される人もいて、作者は徹底的に後者だったのかな、と。

 

不幸なのは貢ぐだけの現金を作者が持ってたことに尽きます。平均かそれ以下の収入の人だったら、数万か数十万の被害ですぐに打ち止めになりそれで終了してた事件なのでしょう。

 

作者は漫画家で「レディコミの女王」だそうで、結構な稼ぎや臨時収入を得ることができる人であったことが悲劇です。さらに言えば結局レディコミってのは徹底的に都合のいい作り事の世界であり、夢想と現実の区別がついてない人であり、例えるならエロゲーや風俗の世界しか知らないのに男女の機微を熟知してると豪語するおっさん、を、性別反転して年寄りにしたような人、って印象になってしまいます。

 

さらに悪いのはどうもこの作者には、詐欺やDVの被害者でありながら、我が子を精神的に支配する加害者性、虐待性のようなものも文章の節々から感じてしまい、しかもレディコミの女王なのだから、それまでの人生で業界で多くの人を傷つけてその地位に君臨してきたのではないかと勘ぐってしまうほどです。

 


読んでてこの事件で掛け値なしに一番可哀想だったのは作者の実子たちでした。

 

 

で。で。私はこう作者を(結局偉そうに)こき下ろしてしまってるのですが、この本のすごいところは、そんなのは作者がもう自覚してるってところです。

 

こうも自分の醜さあさましさを赤裸々に、しかも巧みな文章で綴ってて、そこはさすがのレディコミ女王の長年のストーリーテリングの賜物。そこは感嘆せずにはいられません。

 

しかも作者は自分を「悲劇のヒロイン」「恋心を弄ばれた」としてることには揺るぎが無く、でも読んでるこっちはそれはあさましい性欲や支配欲に見えるわけで、それ自体がこの本を非常に高度な見世物として成立させてるかのような印象も感じて、いろんな意味で「見事だ」とも思ってしまいます。

 

見事な本でした。

 

 

あと最後に大事なことですが、「被害者は愚か」ってのは事程左様にどうしても否定しきれないのですが、それはそれとしても、最も邪悪で許せないのは詐欺犯であるということは変わりなく、この加害者は、そして世界中の詐欺師は、死ね。

 

 

 

 

スポンサーリンク