私は常々、「フリーの殺し屋」って職業で食っていくのは絶対無理だよなあーって思ってます。現実世界では。
絶対フィクションの中でしか成立しない商売ですって。
ではマイホームヒーローに出てくる窪という殺し屋はどうかというと、「フリー」感はほぼ無い代わりに「商売として成立してる」感は結構あって面白いと思います。
週刊ヤングマガジン 原作:山川直輝 漫画:朝基まさし 「マイホームヒーロー」
まず、殺し屋という職業について。
現実世界には犯罪反社非合法組織ってのは実在しますから、殺人は普通にありえますし、そこに任務や報酬の概念もあるとは思いますが、だからってそれを専門の職業とするってのはどうしても成り立たないと思います。
だって、犯罪者なんだから誰か殺したいと思ったら自分らで殺せばいいだけで、赤の他人を雇う必然性がまず無いです。
それに赤の他人に依頼するには自分達の情報をそいつに明かす必要があり、そのデメリットやリスクがかなり大きいです。
自分が仮に犯罪組織の人間で、誰か殺したいと思ったとしても、それで「フリーの殺し屋を雇おう」って思わないです。
また、自分らの実力的問題で殺せない相手に、超人的な能力を持つ殺し屋を雇う、みたいな線はそれこそ漫画です。
そんな超人的危険人物がもしいたら裏社会では目の上のタンコブになることが容易に想像できます。
だって自分自身がいつかそいつに殺されるかもしれないじゃないですか。絶対ほっときません。真っ先に全力でみんなで一丸になってそいつを排除します。
また「違法な商売で大金を稼ぎたい」というなら、今の世の中殺し屋なんかよりずっと稼げる商売があると思います。
ゴルゴ13のデューク東郷みたいなのは漫画の世界じゃないといろいろ成り立ちえないです。
それに日本に住んでると、どこかの社会的重要人物が射殺された、事故死した、不審死したなんてニュースは、少なくとも誰かがその報酬で生活できるだろうほどの件数を聞きませんもんね。
他にも、もし殺し屋がこの世にいるなら真っ先に殺されてなきゃおかしい人がずっと生きてますし。
やっぱりフリーの殺し屋ってのは商売にするのは不可能です。
単発的な殺人依頼とか交換殺人とか、どこかの組織に所属する「フリーじゃない殺し屋」なら論理的に成り立つとは思いますが。
……とまー、なんか理屈っぽいつまんないことを書いたのですが、私は決して「現実では殺し屋なんてありえないので、そういうフィクションは荒唐無稽だ」とか思ってるわけではありません。
殺し屋を扱ったフィクションには素晴らしい作品がいくつもあり私も楽しんでます。
魔法を扱った漫画を「魔法なんてありえない」なんて言って腐すのはバカです。
で、ようやくマイホームヒーローの窪の話になるのですが、こいつの殺し屋像が、なかなか、漫画ならではのフィクションっぽさと「ひょっとしたら現実にこんな奴いるかもしれない」という現実感とがいい感じに混ざり合ってて面白いキャラと思ってます。
まず「フリーの殺し屋」とは言いましたが、窪の立場は、ガチのヤクザ間野会に実質的に所属している状態なようです。
組長の志野には敬語で話していますし。
「俺はどこの組織にも属さないし、金さえ受け取ればどんな相手の依頼も受ける」みたいなのとは遠く離れた存在です。
そしてそもそも窪の仕事は殺しだけでもなくて、半グレ部隊の隊長役とか違法取引とか実務処理とかいろいろやってます。
あれ?フリーの殺し屋じゃないじゃん。
なーんだ。だったら別に特別なところなんて別に無いんじゃねーの?
私はそうとも言い切れないような気がしてます。
つまり、窪は別に間野会や志野に対して全く忠誠心を持ってないように見えます。
窪はいざとならば彼らガチヤクザを切り捨てることも平気でできそうな気がします。
だからこその「ヤクザではなく半グレ」「フリーの殺し屋」なのではないかと。
窪は志野から我らが主人公哲雄を殺す指令を受けました。
志野からしたら、自分らに思いっきり歯向かった哲雄は、もし見逃したらメンツや今後の仕事にもかかわる死活問題ですが、窪にとっては別にどうでもいいことな筈です。
じゃあ窪はこの作品の最終決戦では必ずしも哲雄を殺す必要は無くて、そんな結末もありうる???
これまたそうとも言い切れない感じも、します。
窪にそこまでドライな印象も無くて、自分の仕事を散々邪魔してくれたやっかいな敵、哲雄を、自分の感情だけで殺す可能性がありそうな気もしないでも無く無くも無いです。
いや分かりません。一体土壇場でどうなるんでしょう。
この漫画、初期は「哲雄一家 vs ヤクザ vs警察」の三つ巴になるかと思ったら、警察は脱落して代わりに妻歌仙の実家のカルト宗教団体が密接に関わるようになって、なんか、「ヤクザ vs カルト宗教」が激突する匂いが強くなってきた一方、「哲雄 vs 窪」の純粋な個と個の戦いの要素もあるんじゃないかって気がしてきました。
「フリーの殺し屋」に負けるな哲雄。頑張れマイホームヒーロー。