河出書房新社 ユヴァル・ノア・ハラリ著 柴田裕之訳 「21 Lessons 21世紀の人類のための21の思考」って本読みました。
この作者の本がなんか好きで、これまでの「サピエンス全史 上下」「ホモ・デウス 上下」と続いてこれも読破して、3作5冊を「制覇したぞ!」って気分です。
頭のいい人が書いた難しい本です。でも頑張ってゆっくり読めば理解できる匙加減。
作者の本では「サピエンス全史」が有名でしょうかね?
私がそれを知って読んでみようと思ったのも「有名で話題になってるから」でしたし。
でも私は別に有名で話題になってる本なら読みたくなるってタイプでもないのですが、その本にはなんか興味を惹かれました。
それで試しに読んでみたら「すげえなあ~」と感心しっぱなしでした。
そこからこの人の本は出たらなんか読みたいと思うようになりました。
ただ新作が出るたびに読みやすさが減っていって難しくなっていくような気がします。
どの本も「すげえ」とは思うのですが。
あ、もしかして「挿絵」が読みやすさに影響してません?
全史とデウスには時々写真とかの挿絵があって、私はそこを見るのも結構楽しんだのですが、21には挿絵は完全にゼロ。
今回は全466ページ全部活字でびっしりです。
しかしともあれ頑張って読了することができました。
難しくて読むのが大変だったけど、苦痛ではありませんでした。
苦痛だったらわざわざ読みませんもんね。
難しい話をなんとか理解して「なるほど!」と思うのは楽しい体験です。
それは翻訳者の柴田裕之のおかげかもしれません。
「外国語を和訳した文章」感はほぼ無かったし、あとこの本は原著を訳す際に「日本語版」としてなんらかのアレンジがされてるとのことでしたし。
作者は世界各国の歴史とかにも詳しくていろんな国の例え話を挙げてくれてて、日本の話もたまに出るんだけど、もしかしたらそのへんはアレンジで増やされてるのかな。
ともあれ柴田もきっとものすごく頭のいい人に違いない!
で、全史とデウスと21は三部作なんでしょうかね???
それぞれが、我らホモサピエンスの「過去」と「未来」と「現在」を語った本です。
シリーズはこれで完結?
それとも数年後に第4作が発行されるのでしょうか?
まー、出たとしても何だかんだ言って私は読むような気がします。
「サピエンス全史」ではホモサピがどんな進化を辿ってきたのかを語り、「ホモ・デウス」ではホモサピが今後テクノロジーによってどうなるかを予想し、そして「21 Lessons」では今現在ホモサピが直面している、あるいは向き合ったほうがいい21のテーマを語る本でした。
1幻滅、2雇用、3自由、4平等、5コミュニティ、6文明、7ナショナリズム、8宗教、9移民、10テロ、11戦争、12謙虚さ、13神、14世俗主義、15無知、16正義、17ポスト・トゥルース、18SF、19教育、20意味、21瞑想。
テーマを並べてみると、一目で「こりゃ確かに重要やな」と思うのもあれば「なにそれ?」と思うのもあって、混在っぷりが面白いです。
そして実際に読むとどれも納得しました。
関係ないけどこれが22だったらタロットカードっぽくなるのに惜しいなと思いました。
21なのは21世紀だからそれにかけてるのかもしれません。
って、タロットを連想したのはただ「13神」がなんか「13死神」と対になってるような気がしたってだけです。
この本は、今この世の中で起こってること、ちょっと考えておいたほうがいいこと、今すぐやめたほうがいいヤバイこと、などなどを作者なりの見解で紹介してくれる本でした。
それが21種類と。
その中でも特に、科学の超進歩と宗教の矛盾が読んでて印象的でした。
科学が進歩して、自動運転車が実用化レベルになって、それでも不意の交通事故は完全にゼロにはできそうになくて(ホモサピが運転するよりは劇的に減りますが)、もし、あなた一人が乗ってる車が2人の子どもを轢き殺しそうな状況になったとしたら、その自動運転車は、マスターであるあなた一人の命を守るようにするか、 子ども2人の命を守るようにするかか、初期設定はどっちにします?とかいう話。
自分で選べるならまー子ども2人を殺してでも自分の命を選ぶでしょうね。
でも初期設定を決める権利を持つのは自分ではないどこかの政府や企業になっちゃうかもしれないよ?みたいな話。
トロッコ問題ですら無くなるという世界が間近に迫ってます。
宗教については、昔のホモサピは病気になったらひたすら(宗教指導者にお金を払って)お祈りするしかなかったけど、今のほとんどのホモサピは何かの宗教のどんなに熱心な信者でもまず病院に行きます。お祈りするのはその後。
稀に現代科学医療を否定する狂信者もいますが、そんなホモサピは、ほとんどのホモサピから「変な人」「迷惑な人」と思われるのがオチです。
じゃあ宗教って今は何のためにあるんや?みたいな話。
作者はイスラエル人なので、「今の宗教のここって変じゃない?」って指摘はめっちゃリアルです。
作者は何の宗教を信仰してるのかは、明確な文章はなかったように思います。
キリスト教でもイスラム教でも本場イスラエルのユダヤ教でも無い?
その代わり仏教的思想にかなり近い感覚の持ち主っぽい。
作者は「瞑想」を日課にしてるんだそうです。毎日2時間も。
それで自分の頭の中の感情とかを整理し精神集中することで、3部作を書き上げたと。
すげーな。
やっぱり仏教徒?
ところでこの本は原著は2018年に書かれたものなので、今まさに世界を席巻してるコロナについては当然記載がありません。
それについての話もいつか聞いてみたいです。
あと他に、アメリカで白人警官が黒人を殺したからって抗議デモが略奪暴動にまでなってることについてとか、スポーツの世界で「体は男だけど心は女」な人が女子の種目に出て圧倒的優勝することについてとか、この作者の見解を聞いてみたいなって思ったりもしました。
ちなみにコロナではないけど伝染病については全史やデウスで書かれていたので、私はそれを読んだおかげで今のコロナについても落ち着いて考えるようにできた面があります。
勉強になる本です。
でもこの本を本当に読んだほうがいい人ってのは、日々の生活に追われて余裕の無い人と、宗教やイデオロギーに取り付かれてる人であって、でもそんな人達はこんな本を手に取らないだろうなあ~って虚しさもちょっと感じました。
これを読むのはたぶん、余裕のある人か、賢い人か、元から読書がまーまー好きな人。私は3番目。
あと余談。この本は全466ページですが、そのうち原註(参考資料)と索引が44ページと全体の1/10も占めてます。
(スピンの左側が全部原註と索引)
私は最初読み終えたときに、「あれ?まだまだページあるのにここで終わり?」って思いました。
でも索引は意外と便利でした。
気になるキーワードが、「あの事については何ページに書かれてたっけ?」ってなったときに、すぐに判明します。
この世の全てのこういう系の本には索引があってもいいかもしれません。