前に「ゼロからトースター作ってみた」って本を読んで、あほくささ3:感心7くらいに感じて、その作者がまた新しいあほくさいことに挑戦したのがこの本でした。
「人間をお休みしてヤギになってみた結果」 トーマス・トウェイツ著 村井理子訳 新潮文庫
前著は作者は「電気トースターの部品を全て材料調達から加工まで自分でやって手作りする!」ってプロジェクトを、最初は大層な理念を抱いて出発したのにどんどん妥協して最後も結局失敗するという悲惨な(それでいて笑えてかつ考えさせられる)本でした。
今著はどうだったかというと、「ヤギになりきる」という挑戦は、最初に言ってしまうと、やっぱりどうもしょっぱい結果で終わってます。
しかし、作者はこのプロジェクトを評価されて2016年のイグノーベル賞を受賞してます。
ちゃんと名誉なほうのイグノーベル賞で。
前回のトースターもけっこう全世界で評価されたらしく、実際に本を読むとどっちも成果はしょぼいのに、評価とか名声とかいう結果はしっかり出してるのが、なんていうか、まー、すごい人です。
やってることは、金持ちイギリス人の現代アート気取りの悪ふざけ…と言ってもいいようなものなのに。
それは、自分が何かバカなこと思いついて、それを実行する本気度と行動力が凄まじいからなのかもしれません。
そこになんらかの感動があるようなないような。
作者はトースター計画で評価を得てもそれから4年間鳴かず飛ばずで落ち込んでしまい、「いっそ人間やめて象になりたい」と思うようになって、それをなぜか実行しようと行動を開始してしまいます。
行動力の化身です。
公益団体のスポンサーを得て、動物の心を学ぶためにシャーマンを訪ねて、気が変わって象をやめてヤギに変更して、ヤギの保護施設、義足の専門家、脳の研究者、解剖の専門家に次々と押しかけて「僕のやりたいことに協力して!いろいろ教えて!」と少しの遠慮もしないで突撃していきます。
それがすごい。
そして「できるかぎりヤギになりきる」という計画を進めますが。
その過程で、最初に作者が考えていたいくつかの構想が無理だとわかり、作者はあっさりと妥協していきます。
その諦めの早さもすごい。
ヤギの視界になるための特殊カメラを作るのを諦め、なりきってる間は言葉とか時間の概念を考えるのをやめるために頭に磁気を流す装置を作るのを諦め、彼のヤギなりきりの精度はどんどん落ちていきます。
作れたのは、四速歩行のための義足と、草を分解消化するための人工の胃という名のただの圧力鍋くらいのもの。
それでアルプスを歩いて越えればプロジェクト成功ということになるんだそうです。
あほくさいです。
でもやっぱり面白かったし、今回の本も前著と同じ人が翻訳してて、文章のセンスがよくて楽しく読み進められました。
文中にヤギの写真を入れてわざわざ「ヤギ」とキャプションを入れてるのとか、ちょっと面白かったです。
他にも、スポンサーにはぎりぎりまで「象やめてヤギにした」ってことを黙ってたりする神経とか。
本を読むと作者はものすっごくいいかげんな性格のバカに見えるんですけど、大学院生からフリーのデザイナーになって、こうやって本が全世界で発行されたり、イグノーベル賞とったり、バカなふりして知能が高い人なんでしょうね。
まさになんとなく偏見でイメージするイギリス人そのまんまの人です。